大阪は、奥州と違って春を迎えていた

暖かな陽気は、冬雨の身体に害もなく、気分もよさげだ


ただ、侍医からの悲痛なる通告によって、それは害された

もう次の歳など言ってられない
今日の夜生きていればいい
それなりの覚悟はしておけ

時間がもうないことなど分かってはいた

分かってはいたのに、辛すぎた



『………そうかい。じゃあ、残りの命を有意義に使おう』



それだけ言い残し、冬雨は部屋を出た


桜の咲く木の下に背を預け、空を眺めている



『三成』

「なんだ」

『すまないね』

「なにがだ」

『こんなにも早くくたばってしまって』

「もう既に覚悟はしていた」

『そうか。もう少し、生きられると思っていたのだが。せめて、卯月の桜が散る頃まで』



卯月の桜が丁度散る頃に、冬雨は十八を迎える

だがそれは叶わなかった

今満開を迎えている桜はまだ散りそうにない



『残念だ、実に。三成を置いて逝くなんてこれ以上の心残りはない』

「………安心しろ。私も直ぐ逝ってやる」

『その答え、僕が死ぬ直前に答えてあげるよ』



桜の花弁を一枚手に取り、弄る

綺麗だった花弁は冬雨の手により、くしゃくしゃになった



『奥州に行く前も、こんな風に桜を弄ったね』

「ああ」

『まだ春を迎える前だったというのに、気の早い桜の木が咲かせていたよ』



その桜は、もう散る

冬雨と同じように、散る

だが、冬雨とは違う点がある

また次の年も、この桜は花弁をつける

冬雨は、二度と戻らない



『死にたいと言えば嘘になる。死にたくないと言えば、』



我侭になるかい?


その笑みは、もう、消える

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テーマ「人外ファンタジー」
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