『ああ、ほら。三成、こんなにも綺麗に桜が咲いているよ』

「………そうだな」

『ふふっ、下手くそだね、三成は。琴の一つも弾けないのかい?』

「習った試しも教わった試しもないからな」



くすくすと笑う女に、嫌気は不思議とささなかった


先月私の下へ嫁いだ伊達家の長女、冬雨


黒い髪が艶やかな、一見はお淑やかそうな女だった

しかしその反面、こいつは口が恐ろしいほど達者だった

歳は伊達政宗の二つ下の十七

その歳に不相応な言葉遣いに、行動


そして、



「たまには実家へ帰ったらどうだ」

『君が望むなら喜んでそうするけども、望まないのであれば自ら行く気はない』

「………貴様が行きたくないのであれば、いい」



伊達政宗との、仲の悪さ

自ら家に帰ろうと思ったことなど一度もない
ただ、三成、君が望むのなら僕は喜んで行くよ

それが、冬雨の言い分だった


何度か伊達輝宗やその妻義姫から文は来るものの

「兄上に会いたくない。兄上がいないとき、三成とともに行く」

毎回必ずそう返事を返す



『………ああ、そうだ。三成』

「なんだ」

『君は、子を成さないのか?別に僕を利用しても構わないのに』

「興味ない。ただ、秀吉様や半兵衛様、そして貴様が望むのであれば成す」

『ははっ………じゃあ、いらないね。秀吉公と半兵衛殿よりそれは聞いていないのだから』



実際、子に興味ないだけであっていらないわけではない

ただ、子を成さぬのにはわけがある



冬雨は、重い病にかかっている

子を成そうとすれば、冬雨に多大なる負担がかかってしまう



『僕の身体を気にしているのなら、怒るよ?』

「誰が心配するものか。貴様などに病があろうとなかろうと興味ない」

『ああ、そうかい。それは嬉しい限りだ』



名も分からぬ心の臓の病

次の歳まで生きられぬと宣告されたのは丁度一月前

そことき冬雨は笑って、「そうかそうか。いやいや、兄上より早くくたばれるとは嬉しいね」

そんな馬鹿なことを言った



「………冷えてきたな。身体に障る。入るぞ」

『はいはい』



立ち上がり、縁側を離れ座敷へと入る


残されたのは、弾き手を失くした琴とくしゃくしゃになった桜の花弁だけだ

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -