冬雨に初めて会ったのは、まだ佐吉だった頃

そして、冬雨があすかだった頃


座敷で一人書物を読んでいた冬雨の所に迷い込んだのだ

そして、私を見た瞬間の一言目が、



『人の顔をじろじろ見て面白いかい?変な子だ』



唖然とした、絶句した、呆然とした

私を知らなかったとは言え、初対面の相手にずけずけと

肝が据わっているというか神経が図太いというか

とにかく、おかしな奴だった



「お前、名前は?」

『知らないねぇ。ところで君は?』

「僕は、佐吉。お前、父上と母上の言っていた病弱姫か?」

『知らない』

「………自分の名前も分からないなんてお前馬鹿だな」

『そうだね』



すると、向こうからぱたぱたと足音が聞こえた

慌てた様子の、母上だった



「佐吉、この方は、」

「母上、こいつ馬鹿ですよ。自分の名前も分からないのです」

「な、なんてことをっ………この方は」

『ああ、結構だよ。言わないでいい』



年上の者にも変わらずの態度と口調

それに、私は怒りを覚えた



「お前、馬鹿だし礼儀もなってない。伊達の姫は皆こうなのか?」

『さあ、そうじゃないのかい?』

「本当はお前は伊達の姫じゃないんじゃないのか?」

『さあ、知らないね』

「佐吉っ、いけません。この方は伊達家の長女、あすか様ですよ?兄上であられる梵天丸様よりも遥かに上の頭脳をお持ちで、天才と言われるのですよ」

「でも母上。こいつ、」

「佐吉っ、」

『ああ、叱らないでくれたまえ。佐吉殿は悪くないのだから』



伊達家きっての天才姫、あすか

たしかに、幼い容姿と身体に似合わない言葉使いに分厚い書物



「今日奥州に来たのは、貴方の許婚と会うためです」

「はぁ…………それは一体、」

「輝宗様の側室の姫君を………」

『ねえ、僕では駄目かい?僕は是非、佐吉殿に嫁ぎたい』



それは、あまりにも早すぎる婚約だった

堂々と言い放った言の葉に母上は驚きは隠せていない



「あすか様?」

『本人の意思を確認しないとね。どうだい?』

「………ん」

『決まりだ。僕が………十二年後の、十七の時嫁ぎに行くとしよう』



書物を閉じ、早足でどこかへと向かった冬雨




そして十二年後の十七

本当に嫁ぎに来た


それからは、ぐちゃぐちゃとしていて、覚えてはいない


ただ、私が迷い込んだせいで奴は私の下へと来た

それは果たして幸せなのか


暗がりしか持たぬ私の傍などが、果たして、

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