「くたばれ」 『兄上の願いで死ぬのはお断りだ』 たまたま運悪く伊達政宗と出くわしてしまった冬雨 その必然的偶然から約二刻が経過した 「もう死ぬんだ。だったら今すぐ死ね。たまには人の役に立て」 『兄上と兄上の妻以外の頼みだったら僕は聞いてるつもりだよ?』 「くたばれ」 『兄上が、死ね』 風が冷たい 奥州の冬は長く寒い あまり外に長居しては冬雨の身体に毒だ 「梵天丸ッ!!!!!」 突如、怒声が響いた いつぞやのあの女の品のない怒声を彷彿させた 「梵天丸、冬雨に近付くな!貴様の病が移ったらどうしてくれる!」 「義、止めるんだ。梵天丸の病は治った。今は、冬雨の病が梵天丸に移るかもしれないんだ」 「何故冬雨なのじゃ!何故梵天丸が死なないのじゃ!?あの化物めが!!!!」 その言葉を叫んだ瞬間、伊達政宗の顔が切なげに歪んだ 実の娘に愛情を手向け、実の息子に怒りを手向ける なんて母親だ 「Ha!!過去と今の区別もつかない奴が」 「ああ、ああ…………何故こやつが、冬雨の兄なのじゃ……。何故妾は、あ奴を生んだのじゃ………」 「っ、黙れ!」 『黙るのは兄上もだよ。母上も兄上も父上も、煩い』 微かな怒りを込めた言の葉は、重々しかった 『行こうか、三成』 「………………ああ」 足音さえ立てず伊達政宗の横を通りすぎる 『もう会わないよう気をつけることだね』 それは冬雨にか、それとも母親にか 二つの意味を含めた言の葉は静かに消えて逝った |