冬雨には、伊達政宗以外に嫌いとする人物がもう一人いる

そいつに会うと必ず冬雨は敵意と殺意を見せ、満面の笑みで罵倒する

だが皮肉なことに、相手に罵倒や罵声なんてものは聞かず

「照れ隠し」と勝手に称し、笑い飛ばしている

面倒なことこの上ない



「よっ、三成に冬雨」

『やあ徳川。遠路遥々奥州に来るとは。三河はよほど暇なようだね。退屈で死ねばいいよ』

「はははっ。相も変わらず辛辣な言葉を送るなぁ、冬雨は」

『本音を吐いてるまでさ。そのうざったい顔面を消してあげようか?』

「いや遠慮するさ。今回は独眼竜に会いに来たんだ。いるか?」

『兄上のことなんか僕が知るわけないだろう。どうぞご勝手に屋敷を散策したまえ。家臣に何か言われたら僕のせいにしろ。あとは知らない』

「そうだな。そうするよ」



冬雨の嫌いな人物、それは家康だった

人懐っこい家康だからてっきり冬雨は懐くかと思えばまったくの逆で

今のように笑みを向けながら毒を吐く

これもまた、見慣れた光景だ



「貴様は私以上に家康を嫌うな」

『そうかい?嫌いというか苦手なのさ。どうもあの類の人間は何を考えているか分からないからね。好いて裏切られても嫌だからね。初めから嫌ってしまえばその心配もない。彼には悪いがね』

「そうか」

『後にも先にも彼を好く予定はないよ』



僕が好くのは三成だけさ


そんな言葉を紡ぎ、彼女は私の膝の上に頭を乗せる

居心地や感触などよくもないだろうに

わざわざそうするコイツの感覚はよく分からない



「普通逆ではないか?」

『僕がこうしたいんだ。ああ、三成がこうしたいのか。気が利かなくてすまないね』



別にそんなこと言ってない

が、わざわざそうしてくれているのだから

私は冬雨の膝に頭を乗せる



『ふふっ、三成は軽いねぇ。成長期に置いていかれたようだ』

「黙れ。…………少し眠る。暫くこうしていろ」

『はいはい』



静かに目を閉じ、眠りにつこうとした


が、



「冬雨ー甘味いるか?甘味」



空気のまったく読まない家康が乱入したため、眠気が覚めた



『まったく君は本当に空気を読まないねぇ。一度死んで償うことをおすすめするよ』

「いやーまさか二人がそこまで進展してるとはな。気が利かなくてすまなかった」

『まったくだよ。さ、分かったら甘味を置いて早く出ていきな。兄上は大方執務室にいるだろうから、会いに行ってそのあとに死んでくれ』

「独眼竜には会うが、死ぬのは断らせてもらうよ」



はっはっは、と笑い声を響かせながら、家康は出て行った

ハァと冬雨は深く溜息を吐き、私の髪を撫でる



『三成は髪が綺麗だね』

「髪を褒められても嬉しくもなんともない」

『そうかい?それは失礼』



クスリと笑い、彼女は呟く



『僕は、死にたくない』



それが、冬雨が私に見せた初めての弱音だった

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