「愛姫様!足を御止めください、愛姫様!」 「五月蠅い!」 外から聞こえた、女共の喚き声と怒声 今し方眠りについた冬雨が起きそうだ 私は、静かに腰を上げた 「黙れ。煩わしくて、仕方がない」 「石田、様」 傍らにいた女中は頭を勢いよく下げ、地に伏した 女――――伊達政宗の正室である愛姫とやらは威嚇のような目付きをする 「冬雨様をお出しください。いるのでしょう?」 「いる。だが、今は無理だ」 「たとえ無理でも、出していただきます。貴方様でしたら、きっと従うかと」 「従う?馬鹿か、貴様は。冬雨は私に従っているのではない。己の本能で動いているのだ」 それが結果的に、私に従うようになってしまっただけで 「ふざけないでください。先日の冬雨様の無礼。私は許すわけにはいきません。私はともかく、政宗様まで。これは、万事に値します」 「仮にそうだとしても。冬雨はそれに関して謝罪は述べない」 「っ…………いい加減になさってください!貴方は彼女の夫でしょう!?妻の無礼を、何故黙過するのです!?」 あまりにも、耳障りな女の声 すると、後ろから障子の開く音がした ゆっくり首を捻れば、不機嫌そうに目を開けた冬雨が、そこにいた 大方、この女のせいで起きたのだろう なんてことをしてくれたのだか 『五月蠅い煩い。ああ、本当に煩い。何だか外で雌犬が鳴いていると思えば、君か。こんな夜中に、無粋だねぇ』 「い、犬!?あ、貴方は何故そのように人を蹴落とすのです!?先日の件といい、今回といい!」 『煩い。僕は疲れた。奥州は過ごしにくくていけないね。兄上が起きてきてもしらないよ?』 「起きてきたんじゃねぇ。起きていたんだ。You see?」 女の後ろに静かに姿を現した伊達政宗 奴もまた、不機嫌そうに顔を歪めている そして私もまた、同じように 『やあ兄上。おはよう』 「Ha!餓鬼が出張ってこんな時間に起きてんじゃねぇ」 『起きたんじゃない。起こされたんだ。そこの――――。貴方の妻である、わんわんと煩い雌犬にね』 「人の妻に随分ないいようだなァ。殺されてぇのか?」 『もうじき死ぬ人間に手をくだしても意味はないでしょうに』 小さく欠伸をし、また部屋に戻ろうとする冬雨 その姿を見た女がまた喚き出した 「待ちなさい!まだ話は…………」 『煩いって意味、分からないかなぁ?どうやらお姫様は、言葉が通じないようだ。わんわんわんわん、耳障りだ。そんなに鳴きたいなら、ここじゃなく、犬小屋で鳴きたまえ。次僕を起こしたら、殺してしまうかもね』 クスクスと笑いながら、静かに障子を閉めた はぁっと溜息を吐き、布団に潜り込む 『手を煩わしてしまったね、三成』 「いい。私が勝手に出たんだ」 『ふふっ、君はいつもそうだね。僕のせいにしてくれていいというのに』 「私の罪は私の罪だ。誰かに押し付ける気はない」 『面白い面白い。だから、君は好きだよ』 そういい、彼女は静かに目を伏せた 小さな呼吸の音だけが、私の耳に残った |