*明き色家康視点


一目ぼれをワシは初めてした

同じクラスで同じ中学出身の薄色つづり


だがワシはクラスで誰かと話している姿を、ワシは見たことがない

席の近い三成とも真田とも毛利とも

家の近い独眼竜とその右目とも


テストのときも自分のだけ回収されず、自分でひっそりと出しに行く

昼食のときも自分の席で一人寂しく食べている


でも薄色はそれを苦にもせず、まるで決まっていることだから仕方ない、そんな感じだ


ワシは今朝偶然思い人を見かけた

だから、普通に挨拶をした


ひどく驚いた表情でしどろもどろに挨拶を返す薄色


その姿に、ワシは安堵した

ちゃんと驚いたりも出来るのだと


数分置いて、三成がきた

だが三成は、考えもしない問いをかけた



「家康、貴様誰と話しているのだ?」



三成はクラスの人間の顔を覚えようとはしない

けれど頭はいいからクラスの人間の名前は全員覚えている

その三成が、薄色を知らない



「誰って、薄色だ。薄色つづり」

「知らん」



どうして、どうして知らないんだ

高一から同じクラスで、仲が悪いわけでもなくて

どうして誰も、彼女を知らないんだ



『あの、徳川君、結構です』



彼女はワシを知っていてくれた

嬉しかった


だが、言葉の意味がわからなかった



「何でだ」

『覚えていてくれていた。それでいいです。ありがとうございます。ですがどうか。忘れてください』



覚えていてくれてありがとう。そして忘れて


その言葉の意味が分からなかった

クラスの人間を知っているのは覚えているのは当然だ

なのにどうして己の存在を忘れてくれと懇願するのだ



「……何故、そう言う?」

『私だからです。どうか、教室に帰るまでに忘れてください。私を覚えているのはきっと』



薄色だから、忘れなくてはならない

覚えているのはワシだけ

薄色は人を不幸にはしない人間


全てがイコールで繋がるわけもなかった

全てが理解出来るわけもなかった



『あなたは優しい人だ。だから、さよなら』

「薄色…………?」

『卒業までに覚えていたら、本当のことを教えてあげます』



卒業までに覚えていたら

それはきっと忘れてしまうということが前提だった

どうしてこの少女はこんなにも


儚いのに、消えそうなのに、助けてあげることが出来ないんだ

ワシは好きになった人を守ることさえ出来ないのか


なんて、無力なんだ



危き
(すぐにでも消えてしまいそうで)