「色刃っちゃーん」

『何か用ですか、猿飛君』

「次の新聞のネタさ、色刃ちゃんに関することにしたいんだよ」

『そうですか。それは楽しそうですね。お断りします』

「何その倒置法」



猿飛佐助 新聞部兼サッカー部所属の三年

顔はよく、運動神経もよく、それなりに頭もよい

学校どころか校外にもファンクラブがあるほどだ

まあ、私からすればただの嘘吐きなのだが



『もう宜しいですか?仕事が残っているんですの』

「ありゃ。ごめんごめん」

『いえ。では――――』

「アイちゃん、だっけ?君の名前」




……やれ、懐かしい名前じゃあないか

在りましたね、そんな名前




『よくご存知ですね。捨てた古き名ですよ』

「へー。可愛い名前じゃん。アイ、アイちゃんかぁ。石田の旦那にもそう呼ばれてたの?アイってさ」

『連呼しないでください。捨てた名に価値はないですよ』

「竜の旦那とは許婚だったんだって?昔から仲良かったらしいじゃん。そのときもアイって――――――」

『猿飛君』




ガシャンッ、と静寂に不似合いな音が響いた

脆いガラスの割れた音だ


ニコリと作り笑顔を浮かべ、言葉を放つ




『私の気は、長くないですよ?』

「………おっかねぇ」




スカートを翻し、私は廊下を歩く

ああ、今日はロクなことがない

憂さを晴らすには、誰が犠牲となるのでしょう



狐-fox-