私の恋人と、彼女の恋人の仲は壮絶に悪かった

二人が通りすがりれば、喧嘩の嵐だ

私か彼女が止めればすぐ止まるのだが


教室には、生徒は一人しかいなかった

その人は、静かに黙々と読書をしていた

過去形であるのは、現在進行形で顔を上げたからだ




「………遅かったな」

『……少し、世間話を』



嘘など吐いていない

世間話かどうか分からないが、喋ってはいたのだから



「………伊達政宗と、会ったのか」

『どうしてそう思います?』

「奴の香りがする」

『香り………ああ、香水のことですか』

「何をしていた」

『喋っていただけ。嘘なんて吐いても、仕方ないでしょう?』



スッ、と彼の読んでいた「悪霊」を取り上げ、隣の机に無造作に置く

薄っぺらい紙を渡せば、彼は怪訝そうな顔をした



「………なんだこれは」

『見てのとおり、大会の申し込み書です』

「何で私が出るのだ」

『貴方はその部の部員でしょうに』



大会でも優秀な成績を納める彼は、我が部には必要不可欠だ

興味なさげに紙を投げ捨てる



『出ないのですか?』

「当たり前だ。そんなくだらないことのために、私の時間は割けぬ」



まぁ、分かりきっていた答えだ

彼はそれで、はい出ます、なんて返事するわけない



「貴様が何か褒美をくれるというなら別だがな」

『ふふっ。嫌ですわ。何されるか分かったものじゃないです、この人は』

「そうか」



申し込み書をゴミ箱に投げ入れ、後ろから彼の首に抱き着く



『貴方は、彼のように、私を突き放そうとはしないのです?』

「くだらない質問をするな」

『………あの人はあっけなく捨てた』

「捨ててほしいのか?」

『まさか。愛してほしいとさえ思っていますよ』

「なら、聞くな。今後そのようなくだらない質問をしたら」

『分かっていますよ、三成』




クスリと笑い、彼――――石田三成の首に顔を埋める

ああ、彼の香りだ

あの卑しい男じゃなくて、彼の



恋人-lover-