『人使いが荒いと言うか何と言うか…………』



大量の冊子とホチキスを両手に抱え、私はそう呟く

クラスの副委員長である三成は仕事もそこそこに生徒会に行ってしまった

そこで、書記である私がパシリというか代理というか

頼まれてしまったわけだ



『女の子に重いもの持たせて…………、私は「昔」のように力は無いのに………』



微かに残る、いわゆる「前世」と言う名の記憶

本当に少ししかないけれど

あまりにも鮮烈に残っているものだから、忘れることが出来ない

記憶力が良すぎるのも困り者か



「…………色刃、じゃないか。どうした、そんな大荷物抱えて」

『徳川君ですか。ああ、いえ。深い意味はありません。これは三成に頼まれたものですよ。職員室まで運ぶのです』

「大変だな。手伝うよ」

『いえ、それは流石に…………』



だってそんな場面三成に見られたら、どうなるか分かったものではない

徳川君と仲良く歩いていた

なんて告げ口されたら、学校になど来れなくなってしまう

折角、志月ユキという面白いものがいるというのに



「三成か?今なら生徒会室だし、他の生徒も部活だ。だから、平気だ」

『っ………勘が鋭いのか、人の心が読めるのか…………』

「どちらでもないさ。ただ、色刃は顔に出易いんだ」

『隠しているつもりですがね。では、お言葉に甘えてお願いしてもよろしいでしょうか?』

「ああ、勿論だ」



ここで断れば、それはそれで怖いし、ね













音を立てて、職員室の戸を閉める

私は儀礼的に徳川君に笑みを向ける



『ありがとうございました。とても助かりましたわ』

「いやいや。大したことではないさ」

『…………では、私は生徒会に向かわなくてはならないので』

「………ああ、そうだ。色刃は、独眼竜と付き合っていたんだってな」

『…………ええ、そうですが。それが何か。あと、その情報は?』



それを知っているのは、当事者である伊達君と三成、そして情報に長けすぎている猿飛君だけ

そんな下らないことを伊達君や三成が口外するわけないし、猿飛君がタダで漏らすわけがない

別に誰かにバレたところで不便するわけでもないが

それをネタに何かと利用されても面倒だ



「ああ、気分を悪くするなら悪かった。気になってな」

『別に害されてはいませんので、質問にお答えください』

「ん、別に意味はないさ。あと情報源は色刃と三成の実家から聞いたんだ」



実家にまで釘を刺すことなんて頭になかった

ああ、そう言えば空櫛と徳川君と三成の家は嫌に仲は親密でしたね

どうでもいいから、忘れてました



『それをネタにどうします?三成と別れろといいますか?』

「言わないさ、そんな馬鹿げたこと」

『………アイとあい。どちらが徳川君の好みです?』

「………………は?」



アイでもあいでも同じだが

伊達君は私をアイと、三成はあいと幼い頃そう呼んでいた

どちらでもいいのだが、目の前の徳川君はどちらが好みか、なんてどうでもいい疑問を抱いた



「………そうだなぁ、ニュアンスもあまり変わらないし…………」

『無理に答えなくて結構ですよ。愚問でした。忘れてください』

「…そうか」



私はここにもう用はないと判断し、スカートを翻す

軽くお辞儀をし、徳川君の傍を離れた



「…………独眼竜から異常な愛を受けた正室、か。人とは変わるものだな」

『………徳川、君?』

「いや?なんでもない」



人懐っこい笑みを浮かべ、私と反対の方向に歩き出す徳川君

私の肩は、微かに震えていた



『まさ、か……………』



記憶の残っている者など、いるとでもいうのか


震え-shake-

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権現はばっちり記憶あります