胃液が渦巻くように気持ちが悪い

彼が私を裏切るくらいおぞましい



『………何か?』



「彼」は、左目を細め、口元に弧を描く

小さく「ああ」と言い、私の手から己の手を離す



「テメェの本音が聞きたくなった」

『………は、ぁ?』



とんだ素っ頓狂な問いだ

そして、意味さえ分からない



「覚えてるか?俺とテメェが仲睦まじかった頃を」

『忘れました。覚えているという努力さえしてません』

「許婚だった。なのにテメェは突然駄々をこねて婚約を解消した」

『ああ、ありましたね、そんなこと』

「なんでだ。あれの理由を、俺は聞きたい」

『貴方など好きでないから』



迷いも躊躇いもなく、理由を述べる

好きでない人との婚約など誰が望む?

答えは、否。誰もいやしない、そんな人間



「それが、答えか?」

『ええ。………あっ』

「…………ユキ」

『………三成』



伊達君の背後に三成が、私の背後に志月ユキが

志月さんはどうだか知らないが、三成は酷く憤怒を露にしている



「………空櫛……あんた、人の忠告が聞けないの?」

『……………さぁ、』

「ユキ、やめろ。俺が呼び止めたんだ」

「だって政宗………!この女、いつも政宗に媚売って……私………」

「ユキ」

「っ、」

「テメェ如きが俺に口答えすんな」



仲が悪いのに付き合っているんですね

まったくもって、理解不能



『三成、そういうことです。望んでなどいませんよ。だから、伊達君に当ててるナイフを捨ててください』

「何故だ。理解出来ん」

『理解はしなくてかまいません。ただ、脳に指令を出してください』

「ほざくな。色刃に付き纏っている虫を殺そうとしているだけだ」

「っ!?石田、あんたこれ以上政宗の悪口言ったら……」

『志月さん、煩わしいですよ?』



あっちこっちで争いだ

疲れてしまう




『あとで叱りなら受けますよ。だから、その凶器を捨ててください』

「……チッ」



カラン、と質素な音を出し、ナイフは地に落ちた

私の手を引き、教室を出る


まあ、退屈凌ぎにはなったでしょう

伊達君に掴まれた手は、三成でプラスマイナスゼロですしね



単純-simple-