『人は悩みや問いを作るのは簡単だ。だが、人はそれを作り直すことは難しいのさ。つまり、あんたらの言ってる泰平とか平和とか復讐とか幸福とかは、実現は不可能ってことさ』



私は、十二町委員長から借りた本を片手にそう語った


その言葉を聞いた彼らは、奥歯を噛み締めた



「いやぁ、面白いことを言うなぁ、凪政」

『私からすれば、あんたらの世迷言のほうがよっぽど面白いさ』

「貴様は何故そうもしていられる」

『石田、私はあんたと違うのさ。この世に同じ人間なんていない。そうだろう?』




机の上に座り、視線は本に向け、彼らを見ない

彼、徳川家康は違うとでもいいたげな瞳で私を見る




『徳川、あんたは絆といいながら絆を絶ったじゃあないか。私とあんたの絆をさ』

「それは…………」

『私は小長井を傷付けてなどいないよ。私はただ、私の意見を言ったまでだ』

「その言葉によって、小長井は傷付いたんだ」

『うん、そうかもね。それが本当だったとしても、私には関わりのないことだ』




本は、残り五ページというところで漸く結末が描かれていた


この本が読み終える頃には、彼らとのつまらない口論も終わりにしよう





『私からすれば人の人生なんて本と同じさ。全て分かりきった結末に何の面白味も感じないさ』

「そうではないぞ。人の人生は起承転結だ。何がどう変わるかなんて分からない。結末も同じとは限らない」

『限るさ。人の結末は死で終わる。人の結末は皆同じさ。死で終わらない人なんているわけないだろう?』





私は小さな音をたて、本を閉じる


私は彼らの方を向き、ニコリと笑む




『変わりのない出来事に、私は楽しみなんて持てないさ』




全て、決まった出来事だ




『もし私に変わりある出来事があるというのなら、注文(リクエスト)をしよう』

「なに…………?」

『過去に、帰らせてくれ』




決して作られることのない、リクエスト



(未来を変えられる)
(そんなこと起きるわけない)