瞳視点


「お母さん」

「あり、善吉くんじゃん。珍しいね。お母さんに甘えたい盛りかな?」

「いや。少し、相談があるんだ」

「相談?うん、いいよ。なんたって私はお母さんだからね」




元心療外科医である私は、人の相談(なやみ)を聞くことぐらい造作もない

それを解決することだって、問題ない


ただ、あれだけ学校ではお母さん(わたし)に近付かなかった善吉くんが話しかけるなんて

少し、不安を覚えた





「で、なにかな?」

「お母さん、伊達は、一体何者なんだ?」

「………それは、どういう意味かな」

「あいつは元々一組(ノーマル)な奴だった。明るくて、誰とでも仲良くなった。安心院とも球磨川とも。それが普通(ノーマル)異常(アブノーマル)でも過負荷(マイナス)でも悪平等(ノットイコール)でも」

「それは、知ってるよ。善吉くんの席の後ろ、一つ席空いてるよね。あそこが、凪政ちゃんの席だったんでしょ」

「ああ。でもアイツは、突然とりつかれたように性格が豹変したんだ」




凪政ちゃんは、私が心療外科医をしていたときの担当だった子

その頃は、普通の子と何ら変わりなく、いつも一緒にいた介添人の片倉くんと一緒に帰っていた

私は凪政ちゃんに異常(もんだい)なしと判断し、通院をしなくてもいいと通告した


でもその次の日、凪政ちゃんは自分の家の使用人を一人殺したという


片倉くんはすぐさま私のところに連れてきた


でも私のところに来ると、無邪気に笑んで、普通にお喋りをした


なんで殺したの


その問いには、知らない、と答えた


私は、わけがわからなかった

この子の異常(もんだい)にじゃない

この子の性格(のうりょく)がだ


結局凪政ちゃんは片倉くんにも私にも、いつもと変わらぬ素振りを見せたことから、異常(もんだい)なしと判断した





「教えてくれ、お母さん。アイツは、本当に過負荷(あいつ)なのか?」

「……………それは、お母さんの口からはいえないよ、善吉くん」

「片倉先輩の見舞いに行ったんだ。そしたら、あの方は悪くない、そう言っていた」

「じゃあそこから解答(こたえ)を導き出してよ。お母さんは、いつまででも待つよ」





私は、心療外科医として、善吉くんの相談(なやみ)を解決できなかった


それは、己の未熟さゆえに



(お母さんは)
(まだ弱かったね)