コンクリートを打ち付ける雨の音がした

フェンスの外側に、幾途は呆然と立っている



「幾途ッ!!!」

『………徳川、君?』

「危ないから、戻ってくるんだ」

『………怖く、ないよ。ここから落ちるのは、怖くないよ』



だってもう何回も、落ちてるもん


その言葉は、己の耳を疑った

この屋上から、何度も落ちている?


ここから落ちたら、普通即死だぞ?

なのに、どうして彼女は生きているんだ?



『だから、怖くないよ。死ぬのは、怖くない』

「幾途………頼むから、戻ってきてくれ………」

『じゃあ徳川君は、私を殺してくれる?』



それにワシは、答えることは出来なかった

人を殺すことなど出来ない

それもあるが、一番は



「ワシとお前は、同じかもしれないんだ」

『――――え?』

「お前は死ぬことが出来ない。ワシは、」



死ぬという権利さえない



『どう、して?』

「ワシは、人を殺したんだ」



それは、中二の冬だった

親友である三成が上級生に目をつけられ、リンチされていた

ワシは無我夢中で集団を殴っていた

そして一人、傷が深く当たり所も悪い三年が、死んだ

ワシは警察に自首すると三成に言った

だが三成は、

「貴様は悪くない。私を助けるためにした。止むを得ないことだ。これは私が、なんとかする」

ワシは、ひどく愚かだ

人を殺した挙句、それを隠したのだ


だからその報いだ


ワシはどんなに辛くても、死にたくても、死という選択肢が表れることはない



「軽蔑したか?人殺しが同級生など」

『思わ、ないよ。私は………お母さんとお父さんに嫌われてるし。両親に比べたら、何でもないよ』

「それで、自殺しようとしたのか?」

『うん。って言ったらどうかな。半分当たり、半分外れ。ねえ、徳川君』



本当に私たちって、同じで似ているね


フェンス越しの笑みは、悲しげだった



「そうだな………さ、こっちに」

『今度こそ、死にたいなぁ』

「今死ななくてはならない理由などない。家が嫌だというならワシの家で暮らせ。学校が嫌だというなら行かなくてもいい」

『……………』



静かにフェンスを越し、ワシに抱き付く

雨なのか涙なのか分からないが

冷たかった



『わ、たしは…………一人ぼっちだよ………』

「一人じゃない。ワシが、共にいよう」

『本当に………?本当に、私の側にいてくれる………?』

「ああ……………」



初めてこの少女が、愛おしいと思った