「おい、家康」

「ん?」

「悪ィんだが、アイツの分のhandout回収してきてくれねぇか?」

「………構わないが………」

「勘違いされても困るが。嫌ってるわけじゃねぇぞ?近付きにくい奴なんだ」



同じクラスで一人ポツンと窓の外をずっと眺めている少女

幾途白名、それが少女の名前

苛められてるわけでも、特別頭がいいわけでもなく

ただ、静かな普通の少女



「幾途」

『…………なん、ですか』

「プリントを回収したいんだ。構わないか?」

『………すいません』



とても謙虚な奴だった

謙虚という言葉も似合い、ネガティブという言葉も似合っていた


ワシと同じ、人種に感じてしまった



『徳川、君』

「ん?」

『屋上の鍵、貸して?』

「屋上?忘れ物か?」

『………忘れ物、かなぁ、きっと』

「まぁ、直ぐ返してくれればいいぞ」

『うん、ありがとう』



銀色に光る鍵を震える手で受け取り、小走りで教室を出た

独眼竜は不思議そうにワシに問い掛けた



「Ah?あいつ、どこ行ったんだ?」

「屋上、だが。忘れ物だとか」

「Hun.その忘れ物、取りに行けないぜ」

「………なに?」

「あいつの忘れ物は、――――」



その言葉を聞いて、ワシは教室を飛び出た

彼女の屋上へと忘れた物


――死という忘れ物だ