伊達政宗視点


『ぼんてんまる、さま』



懐かしい名だった

今は捨てた俺の幼名

そして、



「あ………い……」



白名の、幼名


時間にすれば、ほんの数秒だった


白名が己の手首を綺麗に裂き、自害したのは




『佐吉様………』



佐吉、それは石田の幼名

俺が、石田から初恋の相手を奪った



「あい………あい……」



意識の無いように、石田は白名の幼名を呼び続けた

俺は、唖然とした



「あい……あい!起きろ、死ぬことなど許さぬ!!」

『……申し訳、ございません……』

「っ……伊達政宗ェエエ!!!貴様、何故あいを突き放したぁ!」



怒りの矛先は当然俺だ

俺が馬鹿なまねをした結果、白名は自害した



「あい……白名……」

「触れるな、近付くな、喋りかけるな!!貴様はあいに触れることなど、許されぬ!!」

『さ、きち…さま……梵天丸様を責めないで……?』



石田の腕にいるあいは、静かにそう言った

なんで、どうして、



「なんで、俺を庇う」

『庇ってなどおりません。ただ、己の失態を人に擦り付けるのが嫌なのですわ』

「あい、喋るな………もういい……」

『今喋らなければ、伝えられません。梵天丸様』



俺の目を真っ直ぐ見るその目は、ちゃんと感情のある美しい目だった

微かに笑んで、話す



『好いてくれて、ありがとうございました。あいは、貴方を好けなかったこと、悔いております』



いい、それ以上言うな

俺が全て悪かった

俺が白名を手に入れたいなんて馬鹿なこと考えなければ



『佐吉様?』

「……………」

『私の、初恋の方……。今まで、愛してくれてありがとうございます………』

「あい……?」

『お二方に好いていただき、私は真に幸せ者です』



――――――出来るのであれば、どうかいつかの未来にて、償わせてください


それだけの言葉を紡ぎ、静かに瞳を下ろした

笑みながら、寝ているかのように死んだ彼女



「あい………あい、あいあいあいあ……あいィイイイイイイイ!!!!」



俺は、自分の幸せのために

他人を、不幸にしてしまった