伊達政宗と戦っているとき見えた姿

石田殿の姿が

悲しげで、嫉妬に包まれた彼の表情


昔、見たことのある悲しみの表情

















『さきちさま!さきちさまぁ!』

「あい!ちちうえ、ははうえ、さきちはあいと遊んでまいります!」



優しく笑む佐吉様の父上と母上

私は佐吉様の手を掴み、引く



『さきちさま!さきちさまは、あいのことすき?』

「うん!」

『あいもさきちさまのことすき!』



純粋で無垢で、穢れを知らないような童

満面の笑みは、いつか失せる




『ねーさきちさま』

「なーに?」

『おっきくなったら、あいのおむこさんになってくれる?』

「じゃああいはさきちのおよめさん?」

『うん!』

「いいよ!約束だよ!」




そして私は、父の無理な婚姻により、伊達家へと嫁いだ


父など大嫌い

私と佐吉様を離した挙句、好いてもいない伊達政宗の正室となり

どれだけ私は、私の家は、佐吉様を裏切ったのか

予想さえ、したくない















「あい……」

『わたしはあいじゃないよ、ぼんてんまるさま』

「でもでも、あいの父上も母上もあいって……」

『わたしはぼんてんまるさまのこと、すきじゃない』

「ごめんね……ぼくのところにきて」



どれだけ私は、梵天丸様を傷付けたか

独り善がりの思いだけで、私なんかを好いてくれた梵天丸様を











そして、時は過ぎ

綾の方が側室に上がるまで、十日をきったときのこと



「よお、白名。まだ俺を好こうとしねぇか?」

『しません。この先どれだけ待とうと、私は貴方を好きません』

「俺がどれだけ抱いても、テメェは俺に見向きもしねぇ」

『貴方に抱かれているときは、意識などないですからね』















私は多くの人を犠牲に生きてきた

佐吉様、梵天丸様、豊臣、半兵衛殿

己の生きるために




『ごめん、なさい………』



生きていて、生まれてきて



『貴方を、好くことが出来なくて……ぼんてんまる、さま』



どれだけ突き放しても、好いてくれて

それが偽りだったとしても

幼き私にとって、幸福だった



『佐吉様、私は本当に………』



―――――貴方が、好きでした



そして、私は


己の手首を切り、自ら命を絶った