外から、伊達政宗の声が聞こえる

私の名を叫ぶ声が



「白名………貴様、間違っても出るんじゃない」

『分かって、おりますよ、三成殿』



私は、判断に迷っていた


ここから出なくては、半兵衛殿のお命が危うい
逆にここから出ては、伊達政宗の思うつぼ


私は、結局無力で非力なのだ




「白名」

『ひでよし……どの』

「お前は悪くなどない」

『な、何を仰って…………』

「此度の件、伊達軍が攻め入って来たもの。故に、白名は無関係だ」

『しかしながら、相手は私を狙ってのこと。私の責です』

「今出れば、不利になるのは豊臣」




ああ、そうだ

でも私がこうして引き篭もっている間に半兵衛殿は一人で応戦しているんだ

彼は、私のせいで傷付くんだ




『私が、悪いのでございます』




薄く唇を開き、か細い声でそう紡ぐ




「何故そう思う?」

『私が伊達を抜け、豊臣にきたから。私が、伊達にいれば、このようなことにならなかった』




全部全部私のせいで

全部全部己のせいで


なんの罪もない豊臣の者が傷付く


私のために手を差し伸べてくれた半兵衛殿が、傷付く




『秀吉殿、私の我侭、聞いてもらってよろしいですか?』

「なんだ」

『半兵衛殿を引かせてください』




代わりに、私が出ます


そう言えば、秀吉殿は目を丸くした




「馬鹿なことを申すな。お前が出れば、」

『分かっております。ですが、戦力では私のほうが上。お願いします。私は、貴方方を傷付けたくなどない』




己のせいでこうなった結果

それを償うのは、私だけ




『お願い、いたします』















『半兵衛殿』

「白名、君………!?」

『お引きください。どうか、ここは私が』

「駄目だ!君は、秀吉たちと中へ……」

『私の責でこうなったのです。お願いします。私は、貴方の傷付く姿を見たくない』



あの男なんかに殺されるなら

私が、この方を守らねばならない


それが、私の罪の償い方



『じき、二国が到着するでしょう。それまで、もたせます』

「無理だ!いいから下がって………」

『半兵衛殿』



一点の迷いもなく、半兵衛殿を凝視する

そして、淡く消え入りそうな笑みを浮かべる



『私は、幸せでございました。一時でも豊臣にいれたことが。貴方の妻となれたことが』

「白名、君…………」

『生きて戻ると誓います。ですので、どうか』



お引きください


手向け、とはおかしな表現だが、髪に着けていた簪を半兵衛殿に手渡す



『手向け、なんておかしいですがね』



ふふっと笑い、背中を押す

そして、最期に伝えたかった言の葉を、



『生涯、愛すのは、きっと貴方だけですよ』



さよなら、半兵衛殿


さよなら、伊達政宗