「半兵衛様!白名様!」

「なんだい、騒々しい」

「伊達政宗が………伊達軍がこちらに向かってきております!」



だから、嫌いなのだ

私が欲している人並みに幸せでさえも、こうも無情に壊すあの男が



「政宗君が?聞いたかい、秀吉」

「無論。兵を出せ。伊達軍を向かえ討て!」

『半兵衛殿、秀吉殿。私も………』

「君は三成君と共にいてくれ。彼の狙いは恐らく君だ」

『しかし………』

「お願いだ。僕は、君のような妻を失いたくはない」

『分かり、ました』




無力な自分も嫌いだ

愛する夫を、半兵衛殿を守れぬ自分など

大嫌いだ


こうして座敷で誰かに守られながら生きる自分が

何も出来ない自分が

あの男よりも嫌いだ













―半兵衛視点―


「政宗君。随分な暴挙だね」

「分かってんだろ?俺が何故ここに来たのか」



ゆっくりと馬から下り、背筋の氷るような笑みを浮かべる

やはり、狙いは白名君だった



「君が捨てた彼女が、何故今更そうも執着する?」

「決まってんだろ?あいつは俺のだ。俺のものをどう扱おうが俺の勝手だ」

「君は綾君を取り、白名君を捨てた」

「俺の妻だ。それは、俺のものと解釈出来る」

「何度言えば分かる?君が。彼女は捨てたんだ!」




彼女は、政宗君が憎くて、自らの足で豊臣に来た

涙こそ流してはいなかったが、その顔はとても悲しそうだった


彼が彼女を捨てた結果がこれだ


なのに何故、そこまで固執するんだ




「退きな、竹中。俺は白名を連れ帰る」

「退かないさ。君は今の状況が見えているかい?伊達軍に対し、こちらには豊臣そして毛利に長曾我部が向かっている」

「Ha!準備は済んでいたってことか」

「圧倒的不利な状況で、まだ白名君を連れ帰ると世迷言を言うかい?」

「ああ。白名ッ!!!いつまで城で引き篭もってるつもりだ!?」




今出て来られては、厄介だ

三成君を着けているとは言え、彼女の性格は圧倒的

三成君では、彼女を縛り付けることは出来ない




「秀吉。三成君だけじゃ心配だ。君も白名君を止めてくれ」

「分かった」




あの二人で止めることが、絶対的とは言えない

だが、時間稼ぎにはなる




「白名ッ!!!!テメェは豊臣の人間じゃねぇ!テメェは、奥州の、伊達の人間だ!!」

「止めろ!彼女は伊達の者じゃない!」

「白名ッ!!!」




出てくる気配はない

安心した


あと少しで二人は大阪に着く


それまで、伊達軍を止めるのが、僕の役目




「悪いが、奥州に帰るのは君一人だ」



二度と、彼女にあんな表情をさせてはいけない

そう誓ったのは、己だ