人が人を殺すことなど、あまりにも容易いと私は悟った



「…………白名、殿………どうして、己の身内を………」



扇子に付いた真っ赤な振り払う

目の前にいる徳川殿は、まるで信じられない、そんな顔だ


それもそうだろう


私は、己の肉親である父母を兄を殺したのだから




『どうして、とは漠然とした聞き方ですね。理由なんて簡単ですよ。邪魔にしかならない。それだけです』

「貴方の肉親である人を殺してまで、一体何を得たかったのですか………」

『しいて言えば人並みの幸せでしょうね』




足元に転がる母だったものを足で容赦なく踏み付ける




『まぁ、母上には感謝しておりますよ?こんな化物産んでくださったこと』




足に力を入れ、全体重を頭に乗せる

当然重さに耐え切れず、頭は中身を盛大に出し、潰れる


血でぐちゃぐちゃになった足袋を私は脱ぎ捨てた




「っ……………」

『あまりいい見世物ではないでしょう?私も気分が悪いので帰りますわ』

「待ってくれ」

『………何です?』

「それで、貴方は満足か?」





肉親を身内を父母を兄上を殺したことが満足か?

そんなもの決まっている


当然のように、





『ええ。とっても満足ですわ』




満足するのだ


私が伊達政宗の正室を止めたことで、幾途家は私を連れ戻そうと大阪を攻めるようだった


それに逸早く気付いた私がこうして、戦を食い止めたのだ


城の兵も門守も私が肉親を殺すなんて考えもせず、のこのこと招き入れて


ほうら、この世なんて馬鹿ばっかり




『もうよろしいですか?半兵衛殿に断りなく出てきたので、行かなくては』

「……ああ………すまなかった」




私はクスリと笑い、徳川殿の横を通り過ぎる




『あぁ、そうでした。徳川殿』

「……ん?」

『別に私を殺そうとしても構いませんが、半兵衛殿に手を出したら、首刎ねますわよ?』

「っ!?」

『では。御機嫌よう』




握り締めた拳から血が溢れている


自分にとって脅威となる前に、消そうとしたのだろう


安直な考えで、泣けてくる


無駄な足掻きに過ぎないのだが




『………石田殿。どうされました?』

「貴様が勝手に城を抜け出したから、連れ戻せとのご命令だ」

『それはそれは。お手間をおかけいたしましたわ』




城の外には、石田殿がいた


その足元には、事切れた兵がいる




『荒い入り方をしたんですのね』

「こいつ等が刃向かってきただけだ」

『ふふっ。では、戻りましょうか。貴方は主君の下へ、私は夫の下へ』




残された徳川殿は一体何を思っているのか


知る由もない疑問を抱きながら私は、馬を走らせた