それは、あまりにも唐突すぎた



「これはこれは。奥州より姿を消した正室殿ではございませぬか」



鼻腔を突くような異臭に近いお香
狙ってくださいと言っているような派手な着物
背後を左右を取り巻く下賎な武士

紛れもない、伊達政宗の側室、綾の方だ

何故この女が豊臣領である大阪に



『これはこれは。奥州筆頭の側室殿ではございませぬか。相も変わらずの格好。異臭のようなので、近寄らないでいただけます?』



嫌味たらしく言えば、激昂したかのように、目を見開く



「な、なんですって!?」

『化けの皮が剥がれていますわよ?そのまま、私が引き剥がして差し上げましょうか?』

「ふん!政宗様からの言伝よ。「あんたはもういらない。奥州の地に踏み入るな」」



あぁ、ひどくひどく滑稽ではないか

勝ち誇ったような綾の方の笑みも、伊達政宗の言葉も

ひどく笑えてしまう



「あんたがいなくなったから、私が正室に上がったの。私が正室になって、奥州はより力をつけたわ!」

『そうでございますか。まぁ、私には縁も縁もない話でございますが』

「………どういう意味よ」

『あら、ご存知でここにいらしたのでは?知らないのであればお教えしましょう。私、豊臣になったんですの』

「なっ――――――」

『ふふっ。奥州が力をつけた?それで?豊臣に敵うとでも?』

「ま、政宗様にお知らせを……!」

『させませぬわよ?』



ブシュッ


耳障りで、脳に残るような音が耳を通過する

それと同時に綾の方の周りの武士が倒れる


私ではない

あの神速の使い手の、刀使いだ



「………他愛もない」

『ありがとうございます、石田殿。とても楽できました』

「ふん。半兵衛様よりのご命令だからな」



その場に座り込み、がたがたと震える綾の方

声すらも出ないとは、なんて見苦しい

いっそ、殺してしまおうか

いや、それではつまらない




「あ、あぁ………」

『生き残してあげたのですよ、綾の方。これでもまだ、彼に伝えますか?』

「い、言わない!言わないわよ!」

『その言葉、本当ですの?』

「嘘じゃない!」

『…………なら、私の忍を貴方に着けましょう。それのようなことを言えば、即喉笛掻き切りますわよ』




忍を呼び、彼女の監視を任せる

怪訝そうな顔をしたが、渋々承諾してくれた


そして、綾の方は、逃げ腰で馬に乗り、みすぼらしく去っていった




「…………いいのか、逃がして」

『かまいませんわ。何の支障もありません。そこまでの度胸、彼女にはないですもの』

「………あぁ、半兵衛様がお呼びだったぞ」

『分かりました。すぐ、向かいますわ』




綾の方に現状を知らせてしまったことを少し悔やむ

言ったところで、何一つ支障はないのだが


どうせ、彼女も最終的に死ぬのだが