「姉上」


前方から聞こえた愛しき声
顔を上げると、いたのは予想通り愛しき私の実弟、政宗だ



『あら、政宗。どうかした?』

「成実からの情報で、甲斐に“異端者”が現れたみてぇだ」

『……異端者?それは、“私のような?”』

「……いや。そいつは突然上田城に姿を現したようだ。天からそいつが堕ちてきた。それはまさしく、“天女”のようだ、と」



天女、ねぇ
左手に持っていた筆を置き、右手で政宗を手招きする
政宗は私の傍に歩み寄り、腰を下ろす




『………政宗ぇ……』

「っ………なんだ?」

『私、その子に興味持っちゃった』




直後、バチンッ、と痛々しい音が部屋に響いた
右頬が段々と熱を持つ

別に叩かれたからと言って、どうってことない
日常茶飯事なのだから




「あ………姉上!すまねぇ、姉上!!」

『ふふっ。平気よ、貴方からであれば、痛くなんてないわ』




そっと抱きしめれば、身体が小刻みに震えていた
大方の予想は付くから、問い質しはしない

腕を放し、政宗の胸に身体を預ける




『その天女様は、まだ甲斐にいるの?』

「yes」

『そう……。決めたわ、私は政宗の姉であることは暴いても、奥州の姫君であることを隠す。その代わり、私は青葉城の女中頭を名乗るわ』

「だ、駄目だ!姉上をそんな役職に就かせるわけには――――」

『政宗』




私の身体を放し、必死にそう言った

私は冷ややかな眼差しを向ける




『私の言う事、聞けない?』




姉弟、というより、主人と下僕に近いしその関係
それで私も政宗も満足だし納得しているのだ




『城を抜けるのも許可が……。いいえ、出ることを許されず、城の行動範囲も限られてる。そんな私に、楽しみをくれないの?』

「違う!俺は……」

『政宗は、小次郎と違って私のお願い、なんでも聞いてくれるもの。小次郎は、役立たずで嫌い。政宗は、私を慕ってくれて、私を愛してくれるもの。だから、大好きよ』

「俺もだ、姉上……。ok、甲斐に行く準備をする。向こう七日分の着替えを用意してくれ」

『はいはい』




その歌声は聞こえましたか

(それは私に跪き)
(それは貴方を嘲笑う)

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