馬を走らせる

隣では天女様が楽しげに鼻歌なんて歌っている

聞いたこともない、鼻歌を



『さくら様』

「なによ」

『退屈では、ございませんか?』

「ヒマに決まってんでしょ!さっきからずーっと馬を走らせてばかりで!」



そんなことだろと思った

性格にも顔にも似合わず鼻歌なんて歌っているのだから


そんな天女様のために一つ、昔噺でもしてあげよう



『少し、物語を聞きませんか?』

「物語?」

『はい。むかしむかしのお噺でございます』







奥州には独眼竜と、城から抜け出せぬ姫がいた
愛されているがゆえ、愛するがゆえ
姫は何事にも屈せぬ志を貫き
独眼竜は姫を愛し、他の者に触れさせぬと言い
姫は二年城の外を見たことがない
ある日、武田に一人女が現れたと報告があった
姫は好奇心ゆえ、武田に赴きたいと願った
無論それが許されるわけもなかった
しかし、姫は告げた
「興味本位よ、ただの」
姫は身分を偽り、武田に赴いた
結果、姫は陰で笑いながら女の世話をした






「………なぁに、それ。なんか私とあんたみたいじゃない」

『ふふっ…………』

「あ、でもあんたみたいな女が姫なわけないか。しかもそれ昔の話なんでしょ?」

『ええ。むかしむかしの姫様のお噺にございます』



長らしく、自分のことを語ってしまった

まあ、馬鹿な天女様は気付く様子もないが



『さくら様、あれが大阪城です』

「あ、うん」



さて、今度はどんな滑稽なモノを見せてくれるのでしょうか



むかしむかしのお噺です

(意味もなき)
(無様なお噺)

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