*家康視点


嬉しかった

蓮夜がワシのところに来て、ワシを頼ってくれたことが


辛かった

ワシの苦手とする種族を、愛する人から頼まれたことが


だが彼女は常に籠の鳥だった


愛情故に、城から出れないその姿は翼を失った鳥のようで


いつも悲しそうに、楽しそうに、外を眺めていた



そんな彼女が、自らワシのところに来てくれた



見た瞬間、殺してしまいそうになった



だが彼女は微笑み掛け、女を紹介した



現に今も女は、気持ち悪いくらいワシのとなりで喋っている




「ねー家康ぅ?」

「ん?」

「家康ってさぁ、私のこと好きぃ?」




その返答にワシは、躊躇った

答えは勿論大嫌い


しかし、ここで今その返事を返せば、この女は何をするか分からない




「そうだなぁ…………。好きと嫌いの中間か」

「えー!?なんでよ!」

「ワシとお前は今日会ったばかりだ。好きになるほうが、難しいじゃないか」

「んー………それもそうね」



馬鹿な女だ

あっさりと騙され、信じる女が



「今蓮夜と色んな国を周っているんだろう?なら、次は大阪はどうだ?」

「大阪?」

「ああ。大阪は半兵衛や三成がいるぞ」

「わっ。行きたい!蓮夜!!どこよ、蓮夜!」

『如何なされました?』

「私、大阪に行きたいの!」

『大阪……と申されますと豊臣でしょうか?構いませんが、今日三河に着いたばかりで………』

「ああ、もう!何であんたはいっつも私に逆らうのよぉ!あんたなんて私の駒なのに!」




そんな罵倒の言葉を蓮夜に投げ掛ける女が憎くて仕方がない

美しくて、麗しくて、聡明な彼女


貴様とは、天と地ほどの差があるというのに




「ワシは一向に構わんぞ。また遊びに来ればいい」




こんな女はいらないが、蓮夜だけ




『徳川様が申されるのであれば………』

「ありがとぉ、家康!」




そう言ってワシに抱き付く女

あまりに身の毛の弥立つ行為に、ワシは女を突き飛ばした



「きゃっ」

『さくら様、大丈夫でございますか?』

「あ………すまない」

「う、ううん……大丈夫」

「すまない………驚いて…………」

『…………では、さくら様。参りましょうか』

「うん。じゃあね、家康!」

「あぁ」



ニコリと気味の悪い笑みを浮かべる


蓮夜は微かに唇を動かした


「また、参ります」



その言葉に思わず口許が緩んだ

次は、殺せる準備でもして待つとしよう



狂気を超えた愛情

(彼女の喜ぶことは)
(ワシの辛いこと)

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