君の耳にすら届かない



たとえいくら優秀な忍であろうと、女であればそれは宝の持ち腐れ

それは私のような者だった


そんな私を自分にと、仕えさせてくれたのは、真田の旦那だった


とても純粋で、純情な人だった


一時の幸せにすぎない、思い出




『旦那………旦那ッ!』




戦の最中

私は、旦那を見失った


私の方面にいた敵は粗方片付いたが、旦那は行方知らず




「長」

『なに!?』

「真田様と思しき人物が」




才蔵から告げられた、情報

私はさして詳しく聞きもせず、その場所へと向かった















死体の山

比喩するなら、そんな感じだ



『旦那!』



旦那はいた

紅い、赤い血を流しながらそこにいた




「おお……白雪か」

『旦那!ごめん……私が………見失ったから……』

「お前のせいではござらぬ。某が未熟故に………」

『ごめん……ごめんね………』

「白雪、一ついいか?」

『なに?』




既に虫の息だというのに

それでも旦那は、明るさを失いはしなかった




「幸せになれ。お前は、優秀な忍だ。お前なら、誰に仕えても、問題はない」



ああ、もう

なんで今言うのさ

遺言みたいなこと、言わないでよ




『うん、分かった。分かったから、生きてよ』




旦那の頬に落ちる、冷たい涙

嫌だ、死なないで




「お前は本当に、優秀な忍だな」




人情のない忍なんかじゃなく、ちゃんと意思も人情もある優しい忍だ


そういって、旦那は静かに目を伏せた



『だん、な?』



ああ、寝ちゃったよ

いつでもどこでも寝ちゃうんだから、旦那は




『ごめんね………愛し、てたよ』




過去形の告白

幼子のような寝顔に私は涙を落とした




『旦那ぁ………!』




告白も謝りも涙も君には届かない




君の耳には、届かない

(何よりも誰よりも)
(愛してたよ)


title by 空橙