*小十郎視点


あの方が、悪くないなど初めから知っていた

知っていて俺は、彼女を突き放し傷付けた

泣いてる姿を何度も見た
笑わない姿を何度も見た
笑っている姿を


見てはいない


笑わないのではない、笑えないのだ


辛く悲しいことしかなく、楽しいことなどない

笑えるはずが、なかった



「ねえ、」

「あ?」

「行ってあげないの?あんた、あいつの」



従者なんでしょ?


発端であるはずの宮古はそう言った

何故いまさら俺に気遣う―――否あの方を気遣うのか

分かるはずもなかった



「テメェのせいなのに、何故そう言う」

「……別に。ただ、気分が悪いのよ。あいつの泣く姿見ると。まるで、私のようだから」



自分の泣く姿なんて、見たくない


そう言い、宮古はその場を離れた

俺はただ、呆然としているだけだった



「片倉小十郎」



不意に誰かに名を呼ばれた

低い声で、不満気に不愉快に


そして、腹に重い衝撃を感じた



「ぐっ………!」

「貴様、それでも従者か。主を見放し、主を傷付ける。それで貴様は満足か」

「……石田………テメェ、なんでここに………」



蹴られた腹を押さえながら、言葉を紡ぐ

だが奴は、質問には答えなかった



「泣いてる姿を見た。それで、奴がどれだけ傷ついているか、分かったはずだ。なのに何故、未だ突き放す」



そんなもの、俺が聞きたい

悪くない、そう分かっても宮古の言葉が頭から離れない


もう、彼女が傷つく必要はない

もう、人前で泣くことを我慢しなくていい

もう、


泣かないでいい



「家康も前田も、不思議そうにしていた。唯一、奴が心許せる人間が何故裏切るか」



ああ、そうか

俺は、



「今一度問う。貴様はまだ、奴を突き放すか」



俺は、彼女の部屋へ足を進めた



進んだセプテット

(もう泣かないでください)
(それが、彼女に言える言葉)