人政視点


『はっ………はぁ……』



荒く肩で過呼吸を繰り返す

最近体調が優れない


体調だけに留まらず、精神的にもぐらついた状態だ


少しでも不安や悲しみを覚えると、過呼吸を繰り返す


相談出来る相手も泣き付ける相手もいない

そんな日常でそんな状態に陥ってもおかしくはない



「人政様」

『…………』

「綱元にございます」

『yes。入れ』

「失礼します」



伊達三傑の一人、鬼庭綱元

最近他国から帰ってきたばかりで、この状況をよく理解していない



「加賀より使者が」

『加賀?』

「はい。お通ししますか?」

『…………ああ』



加賀、といえば昔馴染みの奴がいるな

そんなことを思いながら私は気だるそうに障子を見詰める



「よっ、人政」

『……………け、いじ?』

「うわっ、顔青いよ」



前田慶次

前田の風来坊と称され、全国各地を歩いている歌舞伎者

そして、私を女と知っている数少ない人



『……どうした?』

「なぁ、人政。右目の兄さんと、何があった?」

『っ…………』



言えない、言わない、言っちゃいけない

関係ない人を巻き込んじゃいけない

そう決めて、あいつまで失ったんじゃないか



『なんでもない………』

「正直に話してくれ。何があったんだ?」

『なんでもない!なにもない!』



頼むから、早く消えてくれ

巻き込んで、傷付けたくはない



『話しても、どうにもならない!』

「たとえそうだとしても、何か力になるさ!」

『私は!私は、何も失いたくはない。だったら、自分から突き放すよ………』




そう己で決めたんだ

これは奥州の問題で私の問題だ

他国の者を、巻き込んじゃいけない




「お願いだ、人政。俺は、あんたを救いたいんだ」

『もう私は何度もお前に救われたよ!もういい!もうお前には、迷惑をかけたくない!』

「俺はお前を助けたことを、迷惑とか面倒だとか思ったこと一度もない!」

『たとえそうだとしても、私はお前を傷付けたくない!』

「俺はお前に何も頼られないほうが、よっぽど辛い!」




その言葉が、私の身体に染みた


幼い頃の私は、一国の当主になるなんて自覚はなくて

いつものように遊びに来ていた慶次と遊んでいた

山賊に絡まれたときも、私は慶次の後ろで震えながら泣いていただけ


いつだってそうだった


私は、守られてばかりだ




『わ、たしは………お前まで、失いたくない……。小十郎も幸村も猿飛も失った……』

「分かってる。俺は、人政が好きだ。俺は、あんたを失いたくない」





「小十郎!小十郎!」

「人政様?どうしました?」

「小十郎!あのね、私は慶次が好きなんだ!」

「慶次、というと加賀のですか?」

「うん!だからね、文を書く!あとあと、なにかあげたい!」

「人政様からであれば、なんでも喜ぶでしょう」

「んー、小十郎。髪紐を一緒に選んで!あと、字を教えて!」

「はいはい」






『怖かった………皆皆私の手から消えてゆく………』

「分かってる、分かってるから」

『全部全部失くなっちゃって………。私は、また、一人になるのが怖かった………』

「あぁ…………」

『でも、でも……。誰も巻き込みたくなかった!傷付けたくなかった!それが、怖かった!』



慶次の胸の抱きつき、泣きながら必死に言葉を紡ぐ

何かを失うのが怖かった
でも、誰かが傷付くのも嫌だった


結果的に、私は一人になるところだった




『うぁあ…!わぁあああああ!!!!』

「人政………。ごめんな、俺が気づくのが遅くて、来るのが遅くて………」

『もう嫌だよ!何で私が、私がぁああああ!!!!』




悲惨に無様に泣き散らす

全部全部あの女のせいだ


もう、あの幸せな日々に戻ることは、できないの?




「事情は分かんねぇけど、お前が苦しんでるのは分かった。ごめんな、人政」



私は、誰かに救ってもらいたかったんだ

優しく、手を差し伸べられる誰かに



泣き虫エグモント

(ありがとう)
(私の涙を受け止めてくれて)




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一欠片の鎮魂歌初のあとがき
アンケートで頂いた慶次を取り入れてみました
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