オイオイオイ。
これは何の冗談だ。
夢か?
いや、寝てねえ。
そもそも寝る前だったのに夢なんか見てる訳が…
え?俺そんな疲れてたか?

ありがちだが頬を抓ってみる。痛い。
夢も醒めねえ。
……夢…、じゃねえ……っ!
ちょっと落ち着けよ。
水。水が飲みたい。

部屋を見回してもベッド以外の家具はない。
窓もない。
何でか部屋全体が薄ぼんやりと明るくて、唯一あるドアに張り紙がしてある。
さっきも見たが、疲れてて空目したんだという期待を込めてもう一度振り返った。


"三時間以内にセックスしないと出られない部屋"


「……いやいや…」


スンと息を吸って、ドアノブに手を伸ばす。
しかし明らかに鍵がかかっているという手応えで、持ち手が途中までしか下がらなかった。
ノックすると詰まった音がして、そこそこの厚みがあるのが分かる。


「……いやいやいや…」


ドアにはご丁寧に三時間からスタートしているんだろうカウントダウンが表示されている。
無常に減っていく数字たちを前に右手で両のこめかみを抑えるように顔を覆った。

嘘だろぉ…。

俺の背後のベッドには横たわっているおなまえがいる。
多分今の状況を知らないでスヤスヤと寝息を立てている。
他には誰もいない。
つまりはおなまえとセックスしなければ出ることが出来ない、と…そうこの張り紙は言っている訳だ。
手をそのまま下げてもう一度貼り紙を見た。
何度見ても文言は同じだ。

………。
何なんだよ三時間って。
無駄に考える猶予とリアルなご休憩時間を与えてくるんじゃねえよ!!
あぁああああぁああどうしよう。

30分ほど一人で悩み続けて、とりあえずベッドに腰を下ろした。
他に座れそうな所が床しかないからであって別に、そう。そういうんじゃないから。


「……」


肩越しに寝ているおなまえを見下ろした。

…可愛い。

薄暗くて柄などはよく見えないが、ショートパンツのパジャマで普段のOLっぽい格好と比べて幼くみえてって俺はそんなことを考えていられる立場か!
この状況で!!

バシッと自分の頬を叩くと、痛みで少し冷静になった気がする。
思いの外いい音が立っておなまえが身じろいだのに緊張が走ったが、変わらず寝ているようで胸をなで下ろした。

……。
いい加減どうするか決断をしよう。

この部屋には食べ物も水もない。
あるのはベッドとドア、カウントダウンをしているデジタル時計だけ。
今の時間はわからない。
多分俺が歯を磨いてたのが23時すぎ。
寝るつもりで洗面所から部屋に戻ったらこの部屋だったから、もうすぐ0時くらい…と仮定しよう。
此処が空想の世界とかでなければ、多分時間感覚は現実のものだろうから、つまりは明日も仕事があるんだ俺達には。
出られなければ困る。

…そう思うと、仮に時間ギリギリでこなしたとしても三時間は眠れる時間配分で、何か余計あの張り紙と時計が憎らしくなってきた。
違うそんなことは今はいい。
つまりだ。
飲み食い出来なくて社会人の俺たちに"此処から出ない"なんて選択肢はないってことが言いたいんだよ俺は。

となると次はどうスるのかって問題になるんだが…。
ひとつ。おなまえを起こして事情を説明し、納得してもらってコトに及ぶ。
互いに合意した上なら、「この状況じゃ仕方がなかった」って事で双方収められる。
…でも明確に致した事実は残っちまう。
気まずくなる。

ふたつ。おなまえが寝ている内に勝手にスる。
外道だがこれならシたことを覚えているのは俺だけだ。
なかったことに見せ掛けられる。
…でも最低なコトをしたっていう罪悪感が付き纏ってしばらくおなまえと顔を合わせられないだろう。
いたたまれなくなる。

この場合もっと最悪なのは行為の途中でおなまえが起きてしまうことだ。
寝て起きたら上司にレイプされてるなんて最悪にも程があるだろ。
リスキーすぎる。
やっぱ無理だ、やめよ。
おなまえに嫌われるくらいなら此処で飢え死ぬ方がよっぽど良い。

起こす…、起こすか……起こそう。
……ああぁ何て説明すりゃあいいんだよ…。
てかこの部屋ベッドだけでゴムもねぇ。クソが……っ!
置いとけよそこは。させるんなら!!

まだおなまえそっくりの等身大ラブドールの可能性が…ってそんな訳もねぇよ。さっき寝息立ててたし。
もしそうだったなら喜んで出来たろうに。
けどそれじゃセックスじゃなくてオナニーだわ。


「……おなまえ。悪い、起きてくれ」
「…ん、……ん…?…れいげん、さん……?」


このままタイムアップまでしようがしまいが、おなまえの意思を確認しないで、なんてのは流石に出来ないし。
一応声を掛けながらスウェットのポケットを探ってみたがやっぱりゴムなんてある訳無かった。
当たり前だよな、いれてねーし。

目を擦りながらおなまえがゆっくり身を起こした。
欠伸をしてゆっくりと瞬きをしている。
半分寝惚けてるのか、「今日はお仕事早いんですね」なんてぽそぽそ喋ってちくしょうこんな状況でなければもっと満喫していたかった…。


「眠いとこ悪いんだが、俺たち今閉じ込められててな」
「そうなんですか…」
「ドアも壁も分厚くて、無理矢理脱出ってのは出来ないらしい」
「……」
「ドアに張り紙があって、それによるとな…俺たちがセックスしたら出られるみたいなんだが」
「……せ…?………え?」


寝ていたから無理もないんだろうが、おなまえが目を瞬かせて首を傾げる。
一応ドアの方を指さしてやれば、おなまえはベッドから降りてペタペタとドアに近付いた。
張り紙と時計の残り時間とを何度も交互に見てから、自分の頬を抓ってみたりドアノブにガチャガチャと手を掛けたりノックしたりと、ちょっと前の俺と全く同じことをする。


「え…っ、コレ、エクボさんが見せてる夢とかじゃあ…ない、ですかね……?」
「二人で同じ夢を見てるってことか?」
「あぁ…そんな…そんな訳ないですよね……」


てか何でそこでエクボなんだ?
聞いてみると寝る前、エクボがおなまえを家に送った時にアイツが『一肌脱いでやる』とかなんとか言っていたらしい。

エクボてめぇ。
やり方が汚ねえ。

一先ず俺の考えとしてさっき考えていたひとつの案をおなまえに提案する。
もう起こしちまった以上ふたつめはナシだし、ひとつめもおなまえがどうしても嫌だって言うんならしょうがない。
その時また考えることにしよう。

切り出す際には"俺たちには明日も仕事があるから"なんて正当性があるように持ち出してる癖に、俺の本心としては"おなまえの意思の方が此処から出ることより大事"みたいに話を運んでる自分に「お前はやりたいのかやりたくないのかどっちなんだよ」と叱ってやりたい。
フワフワしやがって。

でも無理だろ。
おなまえが「嫌だ」って言ったら。
「俺とそういうことは出来ません」ってハッキリ言われたら、立ち直れねーぞマジで。
俺がやる気でいた分だけダメージがデカくなる。
それを避けたくて逃げ道を用意してしまう。
これはもう、俺の癖みたいなものだ。

案の定おなまえは困った顔で考え込んでしまった。
もう「無理」って言われた時の心の準備、しとこ。
おなまえは残り二時間を切った時計を確認してから、俺に向き合う。


「あ…あの……霊幻さん」
「うん」
「…これは…ここから出る為に仕方ないこと、なんですよね……?」


……お…?


「…そうだな。他の手段がわからない以上、そうなる」


考える振りをして右手を口元に、握った左手を腕を組むみたいに右腕の影に隠した。
おなまえはしきりに両の指を合わせたり組ませたりしながら、顔を赤くして俯く。
たまに俺の様子を窺ってはすぐに視線を逸らして、如何にも緊張してますって素振りだ。
…不覚にもちょっとムラッとする。
いやいや、焦るんじゃない。
"状況は理解したけど嫌です"のパターンかもしれない。
俺もおなまえの反応を待つ。


「じゃあ…も、もし私が…"します"って言っても……かっ軽い女だってお、思いませんか…?」
「お……、思わない」
「そ…そうですか…」


小さくおなまえの口が言葉を零した。
よく聞き取れなかったが、多分「そっか」か「良かった」みたいなそんな感じの言葉だ。

おなまえが息を抜いたのを見て、え。それが気になって緊張してたのか?って思ったら何だかその健気さが胸に来てニヤケそうなのを必死に手に力を込めて堪えた。
今なら相当頑張れそうな気がする。
この勢いなら告白できるんじゃねぇかな。
というより言いたい。
仮に出る為に仕方ない行為だったとしても、その前に気持ちを言って置きたい。
いやでも。


「……それって、俺が軽い奴って思うんでなければ俺としてもいい…と取っていいのか?」
「し…仕方ないですし……それに…」
「……」
「わ、私なんかが相手で…その…申し訳ないんですけど……」
「そんな事ねぇよ」


つい腕が伸びた。
いじらしすぎて、可愛くて、もうそうせずにはいられなくなって。
目の前のおなまえを咄嗟に抱き締めた。
私なんかって、全然そんなことないのに。
腕の中でおなまえは身を固くするけれど押し退けたりはしてこない。
顔は見えないけど、俺も、今しっかり顔を保ててる自信がないからこのままでいい。
髪からおなまえの甘い香りがした。


「…出る為にするけど、俺はそうじゃない」
「……え、?」
「前から、俺はおなまえが好きだ。だから抱きたくて抱く」
「…う…」
「……いい、か?」


抱き締めたまま首筋に顔を埋めるようにして聞けば、おなまえは首まで真っ赤にして頷いた。


「わたし、も…霊幻さんなら……」


そうして背中に腕が回されて身を寄せられる。
本当に夢じゃないよな。
そのまま首を傾けて口付けた。
一瞬だけ背中を掴む指に力が入って、おなまえが口を開く。
舌を互いに絡め合いながらベッドに身を沈めれば、少しだけ強張った表情のおなまえと目が合った。


「…よろしくお願いします…」


こんな状況に似つかわしくない言葉選びに、本物のおなまえだと確信する。
その熱い頬に手を触れて、そのまま髪を掻き上げるとそれだけなのに固く目を閉じられた。
もう一度その唇を塞いで緊張が解けるまで髪や指を撫でていると、次第におなまえの目が潤んで息が荒くなっていく。
口から零れる唾液を拭うことも忘れている様子に、服の上から柔い力で腹から胸へと手を滑らせた。
服の下からツンと主張をしている先を擦るとおなまえが息を漏らす。
もう片方の手でパジャマのボタンを外していくと、甘い香りが強くなる。
胸元に口を寄せれば、早く脈打つ鼓動が伝わった。
舐めても甘い味がする気がする。


「ぁ…っ、ふ…」


指先で摘まんだり唇で挟んだりしている内に、おなまえの声が滑らかになっていく。
少し強めに吸うと肩を震わせて俺の髪に指を絡めてきた。
「気持ち良いか?」と離さないまま尋ねると、おなまえは恥ずかしそうに片腕で顔を隠そうとしたが、その腕を掴んで止める。
おなまえは一層眉を寄せて、でも抵抗はしないでコクコクと頷いた。
掴んだ腕を緩くベッドに押し付ける。
胸をしゃぶったまま右手でおなまえの内腿を撫でると、少し息を詰めておなまえの視線が揺らいだ。
まだ怖いなら、と膝の内側まで滑り下ろす。


「だ…だい、丈夫です…」


おなまえの自由な方の手が俺の右腕に触れた。
僅かに足を開きながら「触ってください」と囁かれて、中心が熱くなる。
潤んで震える瞳が一瞬ドアの方を見るが、その顔に覆い被さって口を塞ぐ。


「時間なんてもう、どうでもいいから」
「で、…でも」


言い返そうとするおなまえにまたキスをして黙らせる。
それでも何か言葉を紡ごうとする舌を捕まえながら、ズボンの中に手を差し入れた。
下着に滲んでいる湿り気に触れると、おなまえが悩ましげな声を上げる。
そのまま下着越しに指の背で擦れば段々取っ掛かりが目立ってきた。
カリ、と爪を立てるように軽くそこを引っ掻くとおなまえの腰が跳ねる。
口を離すと熱に浮かされたおなまえが短く呼吸しながら俺を見つめている。
指先の動きを止めないまま唇を舐めて言い聞かせる。


「気にしない。…いいな?」
「…は…、いぃ…っ」


そんなもん気にしてられないくらい責めてやる。
おなまえの声の間隔が短くなって、腰が浮いてきた。


「んっあ、あっ!れ…れい、…げ、…はぁっ!」
「おなまえ…」
「ひ…、だ…ダメっ、あぁっあ…っく…んん…!」


ベッドに押さえ付けていたままの手に指を絡めて名前を呼ぶと、その手に擦り寄るようにおなまえが身を捩って膝が震えた。
腰が浮いた隙に下着ごと脱がせて、俺もスウェットの上を脱ぐ。
荒く息を吐くおなまえを抱き寄せると、膝の上に横抱きする。
おなまえが俺の首筋に甘えるように鼻先を擦り付けてきて、その額に唇を落とした。


「指、入れるな」
「…もぅ…平気、です」
「んー?」
「んぁっ!あ、…!」


ゆっくり中指を埋めると、中から更に愛液が溢れてきた。
締まってるけど、思ってたより濡れてる。
もう一本いけそうだと薬指も入れてみたが、おなまえが言った通り痛くはなさそう。
グニグニと襞を探れば、濡れやすいのかどんどん水音が増してくる。


「はぁ…っあう、ぅ…ん」
「…すげ…」
「うぅ…、も…れぇげんさ…」
「…ぉ、…積極的ぃ」


おなまえが俺の逸物をスウェットの裾から手を滑り込ませて直接触れて来た。
胸元に興奮したおなまえの吐息がかかる。
弱い力で握られても差程気持ち良くはないが、おなまえが触ってるってだけで息子はガチガチだ。
しかも座ってる俺を脱がせようと片手でスウェットを下ろそうとしてきて、そんなに急かされるといい気分になってくる。
もっとイカせたかったんだけどなぁ…。
俺が挿れたくなってきた。


「…じゃあ、次はもっとゆっくりしような」
「っ、…うう…」
「でもゴムがな…」
「いい…ですから、…はやくぅ…っ」


う…ヤバい。
腰にクルぞ。
息を吐いて、気を落ち着けてから自身を露わにするとおなまえが跨ってくる。
その腰を支えるとどちらからともなく唇を合わせておなまえの中に入っていく。

あー…ダメだ。どう気を落ち着けようが無理だわコレ。気持ちいい。
あったかい。中がきゅうと包まって奥に向かうと吸い付いてくる。
腰を引けばザワザワと自身を刺激してきてすぐ目の前には揺さぶられる度に嬌声を上げるおなまえが。
奥を小突くと中が締まるし、より甘い声になって胸を反らす。
堪んねぇわ…。


「ひぅっ…、あ、…ぁっああ!」
「…は、……んっ…」


ヌチャヌチャ結合部から音がする。
俺の動きに合わせておなまえも腰を下ろして根元まで深く繋がる。
エロい。
イキそ。
もっとこの中にいたい。
くぅ…。
奥のコリコリ当たるの、気持ち良すぎる。
おなまえも気持ち良さそうだけど、ここは俺にも刺激が強い。
抱き締めながら腰を浮かせると肌がピッタリくっついて、柔らかくて、"セックスしてる"って実感が高まった。
んー……おなまえをイカせるまで持たねぇなこれ。
結合部から溢れてるのを掬いとって、秘芯に擦り付けるとおなまえの中がうねる。


「ひっ!あ、あ、そこ…ぁっ、だ…めぇっ!」
「ぁー……、俺もヤバいわ…きもちぃ…」
「ふ、ぅく…あっあぁ!」


おなまえの内腿がプルプルと震えると、体が弓なりにしなって中が何度もひくついた。
射精感がせぐり上げてきて、自身を引き抜きおなまえの荒く上下を繰り返す腹と胸に熱を吐き出した。
ゆっくり俺のがおなまえの体を伝っていく。
その様すら扇情的で、もう部屋を出るとかどうでもいいような気がしてきた。

……そうだこの部屋ティッシュもないんだわ。
あぁ…どうすっかな…シーツでいいか。
どうせエクボか作った部屋なんだから俺が管理してる訳じゃねーし。
指一本動かす気力が無さそうなおなまえの体を拭いて、服を着せてやる。
俺も着直しておなまえを抱えるとドアの前に立った。


「……」


開いてるよな…?
ちゃんとしたし。
時間内だし、と時計を見て確認した。
このドアの外が互いの部屋に直結してたらいいんだが。
そこんとこどうなんだ。
いい感じに出来てんのか不安な気持ちでドアを開けた。


「…開き、ました?」
「…うん。俺の部屋、だけど…」


おなまえはどうすんだよ。
此処から帰らせるにも靴すらねぇんだぞ。
一歩踏み出してから、「もしかしてもう一個ドアできてんのか?」と思って後ろの今まで閉じ込められていた部屋を振り返った。
すると今俺が出てきた扉の向こう側に、見知らぬ部屋がある。
さっきの部屋とは全然違う普通の部屋だ。
クローゼットにテーブルにベッド。
窓もあるしドット柄のカーテンも。


「あ。私の部屋です…」
「おー…どうなってんだこれ」


初めてお前をすげーと思ったぞエクボ。
ベッドにおなまえを降ろして、布団を掛けてやる。


「体辛かったら明日休むんだぞ。…おやすみ」
「フフッ…おやすみなさい、霊幻さん」


頬に唇を落とすとおなまえが擽ったそうに笑って、直接「おやすみ」が言える日がくるなんてとジンとした。
おなまえの部屋を後にして扉を閉めれば、もう一度開けてもいつもの俺の部屋が続くだけになる。

…あ、そうだ水飲も。
コップに水を注いで飲み干す。
ケホッと空気を吐き出して、時計を見た。
もうすぐ午前三時を指そうとしている短針に、「寝て仕事に備えろ」と冷静な声が頭に浮かぶ。

寝て起きたら全部夢だったなんてこと、ないだろうな。
どちらにせよ、この事を後でモブに言ってやろうと決めて布団に潜り込んだ。
勿論閉じ込められて何をしたのかは伏せるさ。
アイツには刺激が強すぎる。
ちょっと痛い目に遭えばいい。
ざまあみろエクボめ。



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04.02/両片思いでセックスしないと出られない部屋
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