※過去拍手4月


『ハァァァ…だっちぃ…』
「まだ4月なのに、今日夏みたいですよね」
『よりによってこんな暑ぃ日に買い出し行かせんなっての…』


腕まくりした肩肘にジャケットを引っ掛けて、除霊の演出に使うらしい米やら酒やらを担いでいるエクボさんの額から汗が一筋顎へと伝っていく。
鬱陶しそうに頭を振って拭えない汗を払うその姿に、私は申し訳程度ではあるがハンカチでその額を押さえた。

私はクーラーボックスを抱えているけれどその中に入っているのはお客様に出すアイスコーヒー用の氷だけで重さはそれほどでもない。
左肩に米袋を担いで右手で酒瓶を何本か提げているエクボさんに比べたら圧倒的に楽だった。
せめて数本くらい私も持とうと進言しても、エクボさんに『危なっかしいんだよお前は』と断られてしまったのでせめて汗を拭うくらいは手伝いたい。

じとりと湿った肌が少しだけマシになったのだろうか、エクボさんの眉間の皺が少しだけ緩まって気だるげな瞳が私を見降ろした。


「ちょっと休みますか?あとちょっとで事務所ですけど…」
『休みてぇがさっさと済ませちまいたい。…だがちょっと手ェ貸してくれよ』
「勿論良いですよ!どれ持ちましょうか?」
『違え。首。ちと緩めてくれ…ってか外してくれ』


酒瓶の入った紙袋に手を伸ばそうとした所をエクボさんに半身を捩られてその右腕が避けられる。
替わりに『ん』と顎を上げて自分のネクタイを取るように促された。
露わになった首筋も荷物を持っている所為か汗が滲んでいて陽の光をキラと反射する。
しっかりした筋と曝け出された喉仏に思わずドキリとして、目が釘付けになってしまう。


「……」
『…オイ、聞いてんのか』
「あっ!ごめんなさい」


慌ててその首元を緩めてやるときつく締められていた襟元で隠されていた鎖骨が見えた。
ボタンも一つくらい外すべきだろうかと思って指をかける。
…でも、そこまで言われてないのにそんなことをしたら変に思われないだろうかという考えが頭をよぎってそのままの姿勢で固まった。


『……』
「……」
『…ハッ、何顔赤くしてんだ』
「あか…っ!ち…、違うんですっ!ボ、ボタンも外した方が良いのかなってでも勝手にそんなことしていいんでしょうかと思ってですね…!」
『熱ぃんだよ早く外してくれ』


『いいから』とぶっきらぼうに言われて急かされた私は急いでボタンも外す。
その合間にもエクボさんは少しでも自分の熱を下げようとしてか悩まし気に--少なくとも私にはそう見える--息を吐きだして、私はその息が指にかかっただけでビクリと指先を震わせてしまった。
するとすぐ側のエクボさんがニイ、と口角を上げる。

反射的に「わざとだ」と察して一歩エクボさんから離れた。


「暑い暑い言ってる割に、元気じゃないですか」
『お前さんこそ急に真っ赤になってどうしたよ』
「ど…どうもしてません」
『そうかい』


さっきまで苛立ちを全面に出していたのに、今は打って変わって余裕そうに喉を鳴らして笑うエクボさん。
まるで正反対のように私は一瞬見惚れてしまった事実とそれを揶揄われた気恥ずかしさを誤魔化したくて顔を背けた。

一気に熱を持った顔をこれ以上見られたくなくて、早足で事務所へと向かう。


『アッ!オイ置いてくなっての!』
「早く済ませちゃいたいんですよね?じゃあ、急がないとですよエクボさん」
『さっきまで甘かったのに急にツンツンすんなって。ちょーっと揶揄っただけじゃねぇか』
「知りませーん!」


荷物故に走り出せない癖に、負けじとエクボさんが追いかけてきているのが声の感覚でわかる。
何が何でも振り返ってなんてやるものかと、モブ君たちが待つ事務所に急いだ。



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