※過去拍手12月


「キスしやすい身長差って12cmらしいね」
「えっ」


私の言葉にモブ君はビクリと肩を跳ねさせて立ち止まった。
日が短くなり既に時間は夜と見紛う程暗かったのに、
丁度良く傍らの街灯が点いたお陰でモブ君の驚いた表情がよく見えて私はつい笑みを浮かべてしまう。

モブ君はそれまで冷えて赤くなった鼻と耳が目立っていたのに、それが一面に広がって私の言葉にパクパクと唇だけを動かして何かを言いたげに、でも言えなさそうにしている。
そんなモブ君の頭上に、まるで背を測るように手のひらを上げて自分の背と比べてみた。


「私とモブ君はほとんど同じ身長だよね」
「う。うん」


12cmか。

これくらいだろうかとモブ君の頭上の手を更に上の空間へ伸ばす。
私の背も多少伸びるだろうが、現時点でもし12cm差があったら隣に立つと少し見上げるのだろうなと、私の手のひらのある空間を眺めてみた。

まだ私たちは中学生だけれど、
モブ君はきっと、もっともっと背が伸びるんだろうなと
すっかり熱くなったモブ君の指に自分の指を絡めて思った。


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12月25日 クリスマス。

私たちは受験に向けて勉学に勤しまなければいけない身なんだと、塾の強制的に眠気を飛ばさせる蛍光灯は語って来るけど、やっぱりこの日くらいは電話じゃなくて直接会って過ごしたい。

「朝も夜も塾に缶詰めだけど、お昼なら時間あるんだ」と言った私の我侭に付き合って出てきてくれたモブ君と束の間のウィンドーショッピングを楽しむ。
街は夜に見れたらとっても綺麗なんだろうなと想像できるイルミネーションが飾られていて、道行く店からはどこもかしこもクリスマスソングが聞こえる。



「♪〜」
「上機嫌だね」
「そりゃあ!会えないかもって思ってたから来てくれて嬉しいし」
「ぼ。僕も、会いたかったから…」
「! フフッ」


有名なクリスマスソングを口遊みながらモブ君と手を繋いで歩いているだけでなんでこんなにも楽しいんだろう。
モブ君からは絶対癒しという名のマイナスイオンが出ているに違いない。

さっきから笑顔を浮かべっぱなしの私の髪にはさっきモブ君からプレゼントされたばかりのリボンモチーフのシュシュが飾られていて、私の隣でモブ君の赤い顔を半分隠している
マフラーは私がプレゼントしたものだ。
ショーウインドウの窓ガラスに映った私たちの姿はクリスマスらしいカップルに誰の目にも見えるんだろうな、と思うとまたひとつ幸せが増えていく。


「あ」


ふと、そのショーウインドウに飾られてる靴に目が留まった。
そのまま足を止めた私につられて、モブ君も足を止めて私の視線を辿る。


「靴屋さん?」
「…ね、モブ君ちょっと見るだけ付き合って!」
「え?勿論いいけど…」


首を傾げながらも私の後に続いてお店の中に入ってくれるモブ君は本当に優しい。

私、閃いてしまったのだ。
女の子には良いものがあるじゃないって。

目当てのサイズを見つけ出して、近くの小椅子に腰かける。
モブ君は「?」を浮かべたまま私の所作を眺めていたけど、箱から出てきた靴を見て一瞬目を見開いた。


「すg、…だ、大丈夫?履ける?」
「履いてみる!モブ君後で手貸して」


モブ君が心配するのもそのはず。かくいう私も正直不安。
何せ箱から私が出したのは超厚底のハイヒールのブーツだったから。

今までぺたんこシューズ、良くて4cmのローファーしか履いたことがない。
そんな私からしたらこのブーツは何段も大人の階段を飛ばしてやって来たラスボス級だ。

でもこれを見た時ピンと来たのだ。
これなら12cm差に疑似的になれるんじゃ?と!

両足のファスナーを閉じて、いよいよ立ち上がろうとするとモブ君が片手で私の背を支えながら手を貸してくれる。
立ち上がるだけなら難なくできたけど、スクッと直立した途端今までの景色が全く違って見えた。


「わ!すごい高い!」
「うん。一気に背が伸びちゃったね」
「へー背高い人ってこんな目線なんだなぁ…」


モブ君に見上げられるのも、今まで背伸びしなきゃ見えなかった高さの棚の上も楽々見渡せるのも、とっても新鮮。

--うーん。これは屈まないとかも。

しばらくそのまま約170cmの世界を楽しんでいたけど、いざ一歩踏み出してみると不慣れな重さと地面までの距離間隔がバグを起こして足首からぐにゃりと躓いた。


「ぅわ」
「あ」


すぐにモブ君が倒れないように抱えてくれて、そのままそっと小椅子に戻される。
こういう所、しっかり男の子だよなとモブ君にときめく半面、私のハイヒールデビューは奇しくも一歩という記録で終わってしまった。


「…ぶなかったね。足痛くない?」
「ううん、ありがとうモブ君」
「折角履いたのにこう言っちゃなんだと思ったけど…絶対転びそうだったから」
「アハ!私も歩くの絶対無理って思った〜」


「でもわかったことあるからいいんだぁ」と言いながらブーツを脱いで、元あった通りに紙を詰めて箱を戻していく。
しっかり大地を踏みしめている感覚をスリッポン越しに確かめてから、腰を上げてモブ君の前に立った。


「何かわからなかったことがあるの?」
「うん。だけど確信が持てました」


急に敬語になった私に、今日何度目かの「?」を浮かべたモブ君にそっと顔を寄せて唇を合わせる。
お店の中なのもあるし、それはほんの一瞬で、当のモブ君は何をされたのか把握できずに瞬きを繰り返していた。

そんな様子が面白くて、またお互いの指を絡ませてお店を出る。
歩いている内に自分の身に起きたことを理解したのか、数日前の帰り道の時みたいにモブ君が「は。えっ…あれっ」と短く声を紡ぎながら赤くなっていった。


「同じくらいの方がキスしやすかった!」
「わ!声が大きいよ!」
「アハッモブ君真っ赤〜」
「誰のせいだと思ってるの…」
「フフ。ハッピークリスマス〜♪」


またマフラーを引き上げて口元を隠してしまうモブ君が愛おしくて、流石にお店の中でしかも自分からは大分恥ずかしかったけど、ファーストキスをあげて良かったなと勇気を出した自分に胸の中でガッツボーズをした。



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