※過去拍手2月
相談所の扉を開けば、真っ先に鼻腔に甘い香りが届いた。
挨拶しながら足を進めれば、その匂いの主が奥の机に堂々と鎮座しているのが見える。
「おはよう」
「…ああ、貰い物ですか?」
有名店の紙袋が脇に下げられているのを見てそう言えば、霊幻は「リピーターのおばちゃんからな」と答える。
「今日バレンタインですもんね」
「……お前はくれないの」
モグモグとチョコを頬張ったままの霊幻の視線を左頬に感じる。
「持ってきてるように見えますか?」
「……」
全くいつも通りの鞄だ。
特に何か詰まってそうでもないし、他に袋も持っていない。
霊幻は口元を引き結び、これ以上この話題はよそうと内心受けているショックを隠した。
---
何件目かの除霊の依頼を片付けて、今日はそろそろ閉めようと戸締りをしていく。
パチリと電気を消し、事務所の鍵を回して「飯食って帰るか」と珍しくファミレスに入った。
「どーすっかな〜」
バレンタインフェアのスイーツが視界の端からも猛烈アピールをしてくる。
パラリパラリとメニューを捲り最後のページのデザートメニューをつい眺めていると。
「甘いもの食べすぎない方がいいですよ」
「…おー」
「お家にもあるんですから」
ピクリと指が反応してしまう。
瞬きをして彼女を見れば、得意げに笑みを浮かべていた。
「もしかして、あんの?」
「いらなければ、引き取りますよ」
「いる」
食い気味に答えるとくしゃりと笑われて、さっきまでモヤモヤしていたものが取り払われていく。
いや別にそんなに気にしてなかったけど。大人だからな。でもだ。
「…チクショー」
落とされて上げられるとは思っていなかったせいで反動がデカい。
「いる」と聞くやいなやニコニコずっと笑って上機嫌な彼女に、当分敵いそうにないと再認識した。
Happy Valentine!