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 カボチャと峯岸



「見て見て稔樹!」
「……営業妨害なら帰ってくれない?」


店先に飾っていた秋の花たちの中にいた小さなカボチャ。
それをまるで雪だるまのように重ねた上に、何処から持ち込んできたのか黒いペンで顔を書き込んだ様を「見て!」と彼女に強引に腕を引かれて峯岸は背後の店長を気にしながらそう言った。


「違うよ!ちゃんと買いますからね!」
「毎度ありがとうね」
「こちらこそです!」


「可愛いでしょ!?」と自分の工夫を評してほしいらしい彼女は、峯岸の後ろのカウンターで微笑ましげに此方を見ている店長にも背伸びをして声を投げる。


「可愛い顔だね。それに雪だるまみたいだ。良いアレンジだよね?」
「…そうですね」
「冬の飾り付けも彼女ちゃんにマネジメントしてもらおうかな」
「えへへ。私でお役に立てることなら!」


店長の言葉を素直に受け取り照れる彼女に、峯岸は「社交辞令、真に受けない方が良いよ」と無慈悲に言う。
その物言いに頬を膨らませて彼女は「素直に喜んでるだけじゃん!」と唇を尖らせた。


「何で稔樹は素直に褒めてくれないの?言ってよもっと」
「毎日来て暇なのかな」
「褒めて!って!"そうだね"とかじゃなくて、稔樹の言葉でちゃんと褒めて欲しい」
「……」


褒める、というのはあの店先のカボチャのことだろうかと峯岸は視線を店外に向ける。
ハロウィンを意識して自ら買ってきたのか、ただ並べていただけの時にはなかった黒いとんがり帽を被らされた2段重ねのカボチャたちには、上段はイタズラっ子のような笑み、下段はジト目のニヒルな笑みがそれぞれ書き加えられていた。


「……個性的で、いいんじゃない」
「!……褒め…?」
「…………笑顔が独特だよね」
「うん!うん!……それで?」
「………………目を引く、と思うよ」


もっと言って!と小さく拍手をしながら催促してくる彼女に押され、ぽつりぽつりと言葉を捻り出す峯岸。
ここ迄言ってようやく「つまりそれって可愛いってことだよねー!」と向こうが勝手に結論付けてくれたので、それ以上は言わなくてよくなり峯岸は内心ホッとした。


「これねこれね、上は私!」
「……どういうこと……?」
「モデル!ホラこことここ!黒子書いた」
「ああ、あるね」
「下は誰でしょーか!?シンキングターーイム♪」
「えぇ……面倒だな……」


ボソリと呟いた愚痴を耳敏く聞きつけた彼女が睨みをきかせる。
それに咳払いをして峯岸は「ちゃんと知ってる人?芸能人とか言われても僕知らないけど」と確認をした。


「もっちろん!稔樹もよーく知ってます!」


テンション高く頷く彼女を横目に、顎に手を掛け考え込んでみる。


--羽鳥……ならメガネだろうし、島崎なら糸目……


「……柴田?」
「ぶー。違いまーす」
「…………芹沢。ボス」
「ぶっぶー。2人とも違いますっ」


繰り返し間違えだと告げられて、苛立ちよりも虚しさの方が勝ってきた峯岸は心当たりのある名前を片っ端から試してみた。
しかし見事に全て外れ、自身と彼女の共通して知っている人物はもう全員挙げたと思うが、と園芸用のシャベルで土をならしながら峯岸は首を傾げる。
そんな峯岸に、得意気な顔を浮かべた彼女が、「降参?」と土で服が汚れるのも構わずに腰を下ろした。


「…降参…する」
「やったぁ!正解はぁ〜……じゃーん!稔樹でしたー!」
「は……?」


一体それの何処が、と言いたげに峯岸はカボチャと彼女を交互に見る。
けれど製作者本人は余程似せた自信があるのか、「会心の出来だよ!」と誇らしげな表情を浮かべていた。

未だ納得の行かない面持ちでカボチャを見つめ続ける峯岸の耳に、「似てますよね!?」と店長に同意を貰おうとする彼女の声が届く。
「薄々そうかな、と思ってたよ」と答えた店長の返事を肯定と捉えた彼女は「ホラ!ね?」と益々居丈高になり熱い視線を送ってくる。

これが自分、と思った途端にそれまで意識していなかったカボチャの笑顔が突然不格好に見えるんだから、人の心理とは不思議なものだなと峯岸は止めていた作業の手を再開した。
仮にも自分を模したものが客に下手な笑顔を振りまくのを見るのは心苦しいものがある。


「……で、これ買ってくんだよね」
「これはお店に……」
「ちゃんと買うって、さっき言ってたろう?」
「買うよ!買うけど、お店にこのまま置いて」
「ダメ。ちゃんと持って帰って」
「良いレイアウトでしょ!?……店長!」


またも店長に同意を貰おうと彼女がレジカウンターの方を向く。
しかし店長は依然ニコニコとしたまま「普通は買って持って帰るよね、皆」と購入品の行方を有り体に答えた。

それでも何とかカボチャをこのままに出来る術はないかと食い下がる彼女と、それに対抗する峯岸の応酬は止まらない。
「仲良いなあ」と店の風物詩になりつつある毎日の光景を店長は後ろから温かく見守っていた。




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