みんなで初詣
「商売繁盛のお守りなんか買うんですか?それって世の中に困った人が増えれば良いってことですか?」
「増えた分以上に解決していけばいいんだこういうのは」
『屁理屈だな』
「兄さん、ここの神社学問の神様らしいよ」
「へぇ。じゃあお守り買って行こう」
「あ。俺も買おうかな」
「私も欲しいわ」
「人も多いし、僕がまとめて買ってくるよ」
初詣でごった返す人混みから少し外れた場所で屋台のたこ焼きをつまみながら私たちはどのお守りを買うか喋り合っていた。
「学問が三つ…と商売繁盛と…あとは?」とテル君が私に声を掛けてくれる。
「テル君はお守り買わないの?」
「んー特に…あ。縁結びとか?」
「え!テル君彼女欲しいの!?」
「強いて選ぶならってところかな」
爽やかに笑ってみせるテル君に「いや君はお守りなんかなくてもできるよ…」と私は顔を引きつらせた。
「あー、霊幻さん。いいのがあるじゃないですか商売繁盛より」
「ん?なんだ?」
寒がりらしく帽子に耳当て、マフラーに手袋と完全防備の霊幻さんの上着をちょいちょいと引いて売店の看板に掲げられたラインナップのひとつを指さす。
「ホラ!悪霊退散のお札!!」
「お。それも買うか。おいテルー、札も頼む」
『お前がそんなんで除霊できるようになったら世の中霊媒師だらけだぞ』
「エクボには効かないのかな」
『俺様日頃の行いが良いからな』
テル君にお金を握らせてその背を押すとテル君は「じゃあ行ってきますね」と人並をスイスイと隙間を縫って売店へと向かって行った。
自分のついででさえもないのにあの行列に並ぶという大役を買って出るなんて何処までイケメンなんだとその背中を見送る。
「やっぱり高校の授業って中学より難しいですか」
「ついていけない訳じゃないけど…まあ肖れるもんは肖って損はないでしょ!」
「そういうものですか」
しれっとエクボが除霊できたらいいのにと毒を吐いた律君の隣でモブ君はトメちゃんとたこ焼きを頬張っている。
律君、モブ君、トメちゃんと三人が並んでいると姉弟感が増すなあと思いながら甘酒を啜っている私の横ではエクボが『本来こういう神社なんか来たくもねーが、人でごった返してる時は居心地が良くて助かるぜ』と得意げに漂っていた。
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右を見ても左を見ても人人人だった景色からようやく抜けて、初詣を終えた私たちは相談所へと帰ってきた。
「あーやっぱ中あったけぇ〜」
「エアコンつけない癖に…」
「節約だっ。…よしお前ら並べー」
「並ぶ??」
戻って早々皆の分のお茶を用意している内に霊幻さんがモブ君たちを一列に並ばせる。
何事かとトレーに湯のみを乗せて私もその列に加わった。
「ほれ。お年玉だ」
「ラッキー!ありがたく頂きますっ!」
「え"っ。俺にもですか!?」
「みんな均一だからな」
「ありがとうございます師匠」
「…ありがとうございます」
「僕の分まである。ありがとうございます」
「えーやったあ霊幻さん愛してる!」
「ハイハイ。無駄遣いすんなよー」
ポチ袋を一人ずつ渡され、それを有難く受け取る。
まさか社会人になってお年玉が貰えるとは思っていなくて、それが例え中学生たちと同じ金額であってもその特別感に胸が躍った。
『俺様には』
「お前は霊じゃねーか!」
『チッ。ケチな野郎だぜ』
「あーわかったわかった。用意してやる」
自分の分がないと駄々をこねるエクボの為に、霊幻さんがなにやら机に向かっている。
一体何をしてるんだろうと手元を覗き込もうとすると腕で隠された。
これはきっと碌なものじゃないぞと私の勘が囁いている。
「よし、エクボ。お年玉だ」
『…金じゃねー予感がする』
「今中見るなよ、マナー違反だ」
『霊にマナーを説く奴…』
「……エクボ…どんまい…」
私は見てしまった。
ポチ袋にしまう紙にマッキーで"所長体験"という文字が書かれているのを。
あれならまだ肩もみ券の方が嬉しいよなぁと私はお茶を啜りながら近々聞こえるだろうエクボの怒声に遠い目で構えた。
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