彼女の武装が過激です



女が髪やら爪やら服やらメイクやらに拘るのは、それが女にとっての武装だかららしい。
そう語っているのはうちをマッサージ屋と勘違いしている腐れ縁のおなまえ。
うちは"霊とか"相談所であってそういう店じゃないんだが。

モブも芹沢も反応しなかったし、やっぱコイツただの肩凝りじゃねーか。
かといって今更「お前悪霊憑いてねぇ」なんて言っても仕方ないし、俺一人で切り盛りしてた時は有難く除霊させて貰ってた恩も感じているし、多分また来月もコイツは来るんだろう。


「そんで社長がさー、言うの!"俺が良いって言ってんのに何か不都合あんのか?"って。大ありだわ!アンタ面接してもいないでしょーよって話!あのバカオヤジめ。女子トイレ入るし。最悪!変態!」
「わぁーかった、わかったから。力むな、指が入らん」


文句を言っている内に固く力が込められて、肩を押していた指先に抵抗を感じる。
うつ伏せて背中を晒しているおなまえを宥めるように項から腰までを指圧した。

ストレスは自律神経を乱すし、怒ったり悲しんだりすると首や背中が固くなる。
逆を言えば此処を解せば少しは気も緩むようになる。
指圧を繰り返している内におなまえの体から力が抜けてきて、手の感覚でいえば大分順調に除霊できていると思う。
項垂れた頭のまま「ふんっ」と零して逆の頬を施術用の枕に押し付けているおなまえの横顔にはまだ不満が見られた。


「そんな怒ってっと皺寄るぞ」
「あの場では我慢したのよ……はぁぁぁ、大丈夫なのかなウチの会社…」


小さな製粉会社で秘書と経理と庶務を一手に任されているおなまえのボヤキは毎回微妙に内容が違って、トラブルの耐えない職場だな、と他人事ながら思っていた。
俺とは違い、転職をしようと思う所か、"この知識が今の会社には足りない"と先だって士業にパイプを作ったり"自分がこれを出来れば会社の役に立つはず"と難解な資格を取ったり、ホント話に出てくる馬鹿社長に見習って貰いたい程愛社精神に満ちている。


「お前ヘッドハンティングの話とかない訳?そんだけ出来るのに」
「……まあ、それは後で話すわ」


やっぱあるのか。……当然か。
俺だって仕事の出来る秘書が欲しい。
でもコイツの努力に見合った報酬なぞこんな辺鄙な事務所に出せる訳も無し。
せめて良い条件の職場に引き抜かれることを密かに応援するしかない。

毎月その日最後の時間に予約を取ってくるコイツと、仕事終わりにそのまま飯に行くのももう数え切れない程だ。
「芹沢さんもどう?」と居れば一緒に誘っているが、今日は芹沢は学校で早めに上がっている。
おなまえが来る前まではいたエクボも、『ソイツは絶対ぇガチモン案件じゃねぇだろ。俺様帰るわ』と慣れた風で帰った。

二人きりだからといってそれが特別どうなるなんてことも考えないで居られるほど、思えば長い付き合い。
施術が終わって片付け始める俺と、パーテーションの向こうで着替えるおなまえ。
毎月恒例すぎて、何の感慨もない。

先月も、その前の月も。変わることは無かったんだ。


---


カラリ、カラリ。
結露だらけのグラスの中で溶け掛けの氷が音を立てる。

大衆居酒屋の中でもちょっとお高めのランクのこの店は、おなまえの予約日に必ず訪れるお決まりのひとつになっていた。
ブラインドを下げるだけの簡易的な半個室空間で膝を突合せて飲み食いするのも慣れっ子だ。
俺が独立したての頃はおなまえの奢りで食べてた飯も、今では飲み過ぎてダウンしているコイツに代わって払うのに躊躇しない程度には余裕が出来て自分の成長を感じたりもする。


「…でさあ、いうの。"そんなもんもテキトウにできねーのか"っれ。できるよお〜!?できるけろテキトウなんてなくて、大変なんらって、それをいってんろにさあ!」
「うんうん。お前はよく頑張ってるぞ」
「でっしょ〜!…んふふ。ムカつくかられ?最近こっそり頭のなかれ言い返してやってんの……ねえ、あらたかコレおかわり」
「俺のやるからそれで我慢しとけ」
「うん………、これらに?」
「レモンサワー」
「れも……?」


本当はただの炭酸水だが、へべれけになったコイツにそんな違いが分かる訳もなく口を付けている。
大学時代は下戸の俺を庇って率先して酒を煽っていたが、今では俺を放って1人で飲み進めて潰れてるんだからホント世話が焼けるヤツだ。お互い様なのは重々承知の上だが。
ぐびぐびと数口飲み込んでから、得意気な顔で「ねえねえ、頭ろ中れ何て言ってやってると思う?」とクイズを出してきた。


「呪われろこのハゲとか?」
「そんなコワイころ思わらいし!」


マッサージの最中はよく口に出してるけどな、と思ったが相手は酔っ払いだ。
そろそろおなまえの瞼も重そうだし、寝こける前に終わりにさせよう。
そう思って「降参降参。答えは?」と下げていたブラインドを上げて出る準備をする。
ニヤニヤとしたおなまえが思わせ振りに自分の胸元に指を掛けて、風を送るようにブラウスの襟元を揺らした。


「正解はあ……どエロい下着つけてる奴相手に怒っててバカなおっさんだなあ、でしたあ〜」
「…え………」


おもわずその胸元に目をやってしまう。
濃いライラックのブラウスで隠れているが、ついその下を想像してしまって上げ終えたというのにラダーコードを掴んだまま固まった。
そんな俺に気付いてないのか、おなまえはケラケラ笑う。


「服一枚消えたら間抜けな図だぞーって思うとお、ちょーっとらけ気が紛れるんらよねえ」
「いやお前それ……、まあいいや。ホラ帰るぞ、バッグちゃんと持てるか」


そのおっさんが知ったら喜ぶだけだろうよ。女子トイレ入るヤツだぞ。
…でも"ただそういうメンタルでいる"ってだけの話の可能性もある。
なんせ今のコイツは説明能力に欠けてる。まともに捉えるだけ時間の無駄だ。

チェックを済ませてよたよたと歩くおなまえの腰を支えながら、コイツの家に向かう。
酒が回って上機嫌に「体かる〜い」と夢うつつで歩くおなまえに「そりゃ俺が施術したんだから当たり前だ」と答えてみたが、この至近距離だっていうのにコイツには聞こえていないらしい。


「〜♪」


鼻歌まで歌っている。
酔いにかこつけて気付かれないのをいい事に、俺の視線はおなまえの鎖骨とブラウスの隙間に注がれる。
抱えたままの腰も、少し位置をずらせば数枚隔てた先におなまえの言う"どエロい下着"とやらがあるのかも、と思うとやっぱり意識しないってのは土台無理な話だった。


--もし本当だったらコイツそんな下着で背中晒してた訳?


俺が片付けてる間、そんなエロいの着直してたの?
その後俺と飯食って酒飲むなんていつものことなのに。
俺との予定があるってわかっていながら身に着けたのか?

悶々と考え込んでしまうがどんなに考えたって答えは出ない。
この答えを持ってるのは隣で酒臭い匂いを振りまいてるおなまえだけだ。


「…はあ……オイ、着いたぞ」
「らんら〜♪」
「近所迷惑。…もう貸せ!この酔っ払いめ」
「ふが」


歌うのをやめないおなまえの口を右手で抑えて、肘に掛かったままの鞄に左手を突っ込んでキーケースを探す。
チャラと音を立てて見つけ出した鍵を差し込み、開けたドアの中におなまえを放り込んだ。


「ちゃんとメイク落とせよ、あと着替えて布団で寝ろ。水飲め。いいな?」
「……くつぅ」
「……」
「このくつ脱げないぃ〜」
「あ"ー、も"ー!」


ヒールの細いストラップに指を掛けるもしっかり力が入らないのか、玄関に腰を落としたままモタモタとしているおなまえを見かねて俺も中に入る。

…クソ、今日は上がらねえつもりでいたのに。あんな話を聞いたから。

華奢な足首に手を添えて靴を脱がせてやると、「ありがとう〜」と呑気な声。俺の気も知らねえで。


「じゃあな。また来月」
「んー…」
「……今度は何だ?」


立ち上がろうとした俺の肘辺りの服を掴んでおなまえが俯く。
俺を掴んでいない方の手で目元を擦って、多分眠たいんだと思う。


「ねむい…」
「寝ろよ。もう家なんだから」


ホラな。
てかメイク落とさないでそんな強く擦るなよ汚くなるぞ。
俺が思った通りおなまえの左手と左目の周りが黒く汚れて、「言わんこっちゃない」とつい声に出した。


「まだ寝るな。雑巾顔に乗せたまんま寝たいのか」
「んん〜……」
「…そんなに深酒してたか?…ったく……」


仕方がない。後で「肌死んだんだけど!」と怒られるのも癪だ。
前にも似たようなことがあった時「これ使って」と言われたリムーバーとかいうのをちゃんと使っておなまえの代わりにメイクを落としてやる。
目元と口元にはコレだっけと手にしたボトルの裏を見てその通りに拭った。
何ヶ月も前のことを覚えている優秀な俺の頭に感謝しろ。

コイツのいう武装のひとつが剥がれてスッキリしたのか、目を閉じたまま健やかに眠りにつこうとしているのが呼吸の間隔でわかって「寝るな」と揺さぶった。


「皺んなる。ちゃんと着替えろ」
「…明日休みだからいいもん…」
「良くねえ」
「………」
「コ〜ラ〜、おなまえさぁん?」
「んーん!」


俺の呼び掛けにおなまえはうるさいとでも言いたげに床に寝転がって口をへの字に曲げて此方に背中を向ける。


--コイツ…!


お前の為を思って口うるさく言ってるんだろうが、とムカついた気持ちをおなまえの鼻を摘んでやって解消する。
息苦しくなってやっと目を開いたおなまえが振り返った。


「はにふんの」
「そこ床。寝るならベッドいけ。着替えろ」
「………はぁい」


やっと聞き分けた。
のそりと重たそうに身を起こして、首の後ろに手を回してブラウスのボタンを外したのかプチと小さな音がした。


「今脱ぐのかよ」
「…見たくないなら出てっていいよぉ、また来月ねえ」


何だその物言いは。
まだ酒気を帯びた赤い目尻が試すように見返してくる。


「見せてくれんなら見るけど」
「……私が見せたいみたいじゃん」
「違うのか」
「んー…半々」


据わったままのおなまえの視線が泳いだ。
その様子で、エロいかどうかは別として、本当に凝ったデザインの下着は着てるんだと確信を持つ。


「へえ」
「でも、やだ」
「…どっちだよ」


慎重に尋ねる。
俺は別に、そのエロい下着とやらに期待なんかしてませんけど。
そのポーズを保つのは自己保身の為で、本心は勿論見たい。
……というか、おなまえからこういう性的な隙を晒されるのは初めてで、若干ビビっているのがバレたくない。


「……何か、…流石の新隆も引きそう」
「おなまえに今更引くも何もないが」


何だビビってんのはおなまえもか。
そう知ると途端にホッとして薄ら笑って肩を竦めてみた。

20年以上もの付き合い。
おなまえが仕事は出来る一方で私生活では寝汚かったり、冷蔵庫の中の物を腐らせる程放ったらかしにすることも知っている。

俺がそう答えると、納得したのか言い訳することを諦めたのか、おなまえがスカートにしまい込んでいたブラウスの裾を引っ張り出し、そのまま頭上に持ち上げて脱ぎ始めた。
引き上げられ裏返しになった襟首から頭を出して、頭上の手が腕に残っているブラウスを引き抜こうとするのを押さえる。
ヘアセットが摩擦で崩れて、乱れ髪のおなまえが「え」と少しだけ目を見開いた。


「ぬ、脱げないんだけど…」
「もうちょいそのまま」
「何れよ」
「…構図が良い」
「変態」
「こんなモン着けといてよく言う」


顕になったのはシルク地のリボンに強調されたおなまえのほんのりと朱が差した胸で、ブラジャーの形状をその光沢で形成してはいるものの勿論細いリボンでは肌を隠せていない。
胸の中心はそれぞれ太いリボンで結ばれているが、結び目の中心から乳輪が今にも覗けそうな程際どい。
余った空間からは柔らかそうな下乳がリボンにくい込んでその弾力性を想像させてくるのも、良くないと思う。

ジロジロと俺が注視している間、恥ずかしそうにおなまえは俯くだけでちゃんと脱ぎ掛けのままを保っていた。
ちょうどこのポーズが、自分から胸を見せつけているようで。うん。悪くねー…いやいや、良くねえよ。大変悪いですねコレは。


「お前コレ着て1日過ごしてたの?朝から?」
「…うん」
「エロ」
「こ、コレも武装の内で…っ」
「…でも今日は先月から予定決まってたろ」
「……、そう…だけど」


言葉を交わしている間も羞恥でか少しづつおなまえの息が上がってくる。
服を脱いでからだから、絶対に酔いが悪化してではない。
寧ろ幾分か舌が回るようになって来ている所から察するに、徐々に状況判断は出来る程度には酔いも覚めてきていそうだ。
結び目のすぐ下がツンと尖り始めているのを見て、口の端が上がっちまう。


「見られて興奮してんの」
「………」
「黙っててもわかるっつーの」


抑えていた脱ぎ掛けのブラウスを引っ張って、腕から抜くのを手伝ってやる。
開放された腕がゆっくりと落ちて来て遠慮がちに胸を隠した。


「もう見せてくれねーの?下は」
「ひ、引いたでしょ」
「引いてたら辞めさせてるに決まってんだろ」
「わかん、ないよ。新隆平気そうな振り上手いし。…引いてないとか、しゃ、社交辞令かもしれないじゃん」


まだ完全に正常な頭では無いらしい。
この状況で社交辞令とか、選ぶ言葉がおかしい事に気付いてない辺り。

大体何だ"平気そうな振り上手い"って。
こっちは来月もまた会うと思って余計なことを考えないように注力し続けてたんだぞ。
話の端から男の影がないか深読みしたり、その馬鹿社長のパワハラにいつセクハラが加わりやしないか心配したり。
それを考える度思うんだ。

俺の立場って何だ。俺たちって何な訳。

ただ目の前の恥ずかしさのことだけで頭がいっぱいになってるおなまえと違って、俺はその何倍も色々考えてたってのに。


「あー…もう、やめるわ」


ビク、と俺の声におなまえが反応した。
言葉が脳に届いたのか、その顔に不安の色が混じり始める。


「好きにするわ。お前に嫌われたらどう、とか考えるのやめる」
「…え…っ、ぁ、新隆…?」


混乱してるのか俺の言葉を理解しようとしてるのか、視線でどういう意味かを問うように見つめられる。
"俺が一番の理解者です"って振りをやめて、今までの我慢を水の泡にしてやろうっつー話だよ。


「脱がないんなら、俺が脱がす」
「…あ、…ちょっ、と」


タイトスカートのホックを探って、指先で外す。
その下のファスナーを掴むと俺の手におなまえが自分の手を重ねて止めようとしてきた。
その手には碌な力が入ってなくて、「止めるんならもっとマジでないとやめねーよ」とすぐ側の耳朶に低く声を落とす。


「ま、待って」
「何で。…自分でやってくれんの」
「そ、れは……恥ずかし、い」
「なら俺に脱がされてろ」


重ねられていた手を俺の首元に連れていく。
締めたままのネクタイを持たせると、俺の意図を拾ったのかおなまえがゆっくりとした動作でそれを解いた。

それと同時に全開まで下ろしたファスナーを寛げて、おなまえの腰を抱えてすぐ後ろのベッドに腰掛けさせる間に邪魔だったスカートを床に落とす。

太腿までを覆うストッキングをブラと同素材のガーターベルトが繋いで、その腰周りを天蓋付きベッドのカーテンみたいにシルクの生地が飾っていた。

何だ可愛いじゃん普通に。
そう思って好奇心から暖簾よろしく縁取るカーテンを捲ってみると、胸は太いリボンで結んであるのにこっちは細いリボンが前面の布地を繋ぎ止めているだけで解いたら前掛けよろしく簡単に取り払えるデザインだった。


--前言撤回。コレはどエロい。


「うん」と1人で勝手に納得して頷いていると、さっきから黙ってたせいかおなまえが俺の首元から解いたネクタイをその胸の前で広げたり畳んだりしながら足をぴったりと閉じ合わせる。


「や、やっぱりやめ、ない?」
「やめない」
「う。」
「閉じんな、見えないだろ」


見せてくれるんだろ。
目線でそう訴えるといよいよ真っ赤になって肩を震わせ始める。


「やらしい顔やめて」
「どっちが」
「私そんな顔してない…」
「は。無防備なのが唆んの」


外でのキッチリ濃い色に縁取られた瞼や艷めく唇も嫌いじゃないが、それを落とした素顔は限られた人間しかコイツは見せない。
その限られた男が俺だと思うと充足感にまたニヤリと笑う。

するりとその頬を指の腹で撫でてそのまま唇を重ね合わせた。
何だかんだと文句をつける癖に、キスを拒みもしない所か寧ろ積極的に舌を差し出して来る。
向こうもその気だったと感じ取れて心の底でホッとした。

熱い舌を互いに絡ませて、唇の端から互いの唾液が溢れるのにも構わず貪る。
鼻にかかった甘えるような声が時折もれて、キスの合間に胸のリボンの結び目を撫でるとその声が粘度を増した。
ツルツルとした生地を一枚隔てた先で、確りと固く主張してくる胸の先の感触が楽しくて遊ぶように繰り返す。


「ふ…、んんっ…ぁ!あら、たか…それ、気持ちいぃ…」


甘えた声で名前を呼ばれる。
蕩けた瞳に俺が写って、物凄くいい気分だ。
片方はリボン越しに指の腹で擦ったり爪の先で柔く引っ掻きながら反対のリボンをずらして露になった乳首を直接摘むとおなまえの声に色が増す。

酒の余韻か興奮か、熱を持った肌に唇を落としていくとおなまえが俺のシャツのボタンを手探ってきた。
「俺は勝負下着じゃねえけど」と揶揄うと「私が勝負賭けてるみたいに言わないで」と自分の有様を恥じる様に噛み付かれる。


「…私だけなんてやだ。新隆も脱いでよ…」
「……」


数個外したボタンが晒した俺の胸元に擦り寄るようにしながら弱々しく懇願される。
一瞬前まで怒り顔だった癖にその変わり様に我ながら呆気なくグラついた。

何コイツ、彼氏の前だとこんな汐らしくなんの???

急におなまえの元彼共の顔が朧気に浮かんで、ちょっとムカついてきたから八つ当たりのように唇に噛み付いた。


---


「…ん、…ぅぐ……っ」
「……っ、ぁんま無理すんなって」
「ふぁは」
「……」
「ん"ッ、う"……は…ああっ!ぅ…」


長い間コウイウコトはご無沙汰だったらしい狭いおなまえの中を指と舌で解してる内に、「私もしたい」と向こうも俺のを舐めてくる。
ぶっちゃけ俺も久し振りすぎて柔い舌の刺激だけで相当キてるんだが、おなまえが喉奥まで俺のを迎えるもんだからその圧に心配が過る。

苦しそうに呻く背中を撫でて無理しないよう言ったのに、それを「嫌だ」と一蹴されたから此方も今まで緩く中を探ってた指でざらついた襞を押し擦りながらクリを吸ってやった。
流石に刺激が強かったようでおなまえの背中が跳ねた弾みに息子が解放される。
喘ぎながらもおなまえは俺のを握ったままで何とか扱こうとしてはいるが、俺が強く吸うとすぐに項垂れて自分の快感でいっぱいいっぱいになっていた。


「あっ、…は、ぁ…んんっ!で、……できっ、な、ぁ"……」


舐められないと抗議する声に構わずしゃぶりついていると、その内震えていた腿が俺の顔を強く挟み込んで中がきゅうきゅうと指を締め付ける。
既で声を押し殺したみたいで、俺の股間に顔を埋めたまま熱く吐き出される息が肌を湿らせた。


「…イク時言えよ」
「……っ、て…ない」
「ああそう…」
「うあっ!…ゃ、ッ!やめ、…」


おなまえの下から出るついでにベッドにおなまえを転がせる。
折角イイ声が聞けると思ってたのに、と静かにイったことを指摘するとヤツは強がりなのか「イってない」とか言ってきた。
中にまだ俺の指がいるのを忘れちまってるんだな、と未だ波打つ中を撫でて優しい俺は思い出させてやる。
まだイけてないらしいから、愛液塗れの親指でさっきまで舐めしゃぶっていたクリも一緒にくるくると先を撫でたり根元を爪の先で擦ってやるとおなまえが高く啼きながら首を振った。


「い、…今それダメ…っ、あ"あッ!や、…ぁあっ」
「一度くらいイっとかないと辛いだろ、なあ?」
「もう!…も"…っ、イイのッ、は、ぁっあ!」
「ちゃんと言えるか?」
「言うっ、…言うか、らぁっ……あぁッ、ん、も、…イっちゃ…っイク、ぅっあ"ぁっ!」


白い喉を反らせておなまえの背がしなる。
荒く吐き出される息に合わせて、リボンに縁取られた胸が大きく上下するのがやけに煽情的に見えた。
涙の溜まった瞳が惚けたように天井を見つめて、少ししてから俺を見る。
赤く火照った唇が俺の名前を紡いでドクリと胸が掴まれたような気になった。


「…そっちの引き出し、開けて」
「ん?」


そっち、と指さされたベッドサイドの引き出しを覗く。
クラフト用紙の小ぶりな紙袋が開いた拍子に音を立てて、他に目立つ物もなかったからそれを取り出してみた。
手に取るとカタリと音がしてその軽さにまさか、とおなまえを見る。


「……お前いつからそういうつもりだったの?」
「いつからって……、」
「それとも他に男誘い込む予定でもあった?」
「ない!き、昨日だしそれ買ったの」


紙袋の中にあったのは素肌のような一体感を売りにしてるコンドーム。
一緒に入ってたレシートには確かに昨日の日付があって、「じゃあやっぱり今日最初からそのつもりだったんじゃねーか」とじとりとおなまえに視線を送る。
俺の葛藤の時間はなんだったんだ。
俺の言葉が文句にでも聞こえたのか、おなまえは柄にもなく「ごめん」と小さく零す。


「嫌だったら、わ、忘れていい…し…」
「やめないって言ったろ。……それとも」


パチ、とラテックスを鳴らすとおなまえが目を見開いた。
お前は2回も気持ちよくなってるから此処で止めても良いだろうけど、生憎俺はまだなんで。

ぺたりとベッドに伏せられていた膝を抱えて自身を入口に宛てがうとおなまえの瞳にまた熱が燻る。


「おなまえはワンナイトのつもりな訳」


ぐちゅくちゅと先で入口を焦らすように滑らせると、中からまた蜜が溢れた。
段々とおなまえの息が上がってきて、甘えた声が零れ始める。


「ぁ…っ、…ちが……うぅ、」
「…安心したわ」


おなまえの否定を聞き入れてから、シーツを掴んでいたその手を俺の首に回させてゆっくり腰を沈めた。
まだ少し狭い中に包まれていく感覚に深く息を吐き出す。
すぐ首元でおなまえが呻いて「痛いか?」と様子を窺うと左右に頭が揺れた。

コイツのことだから強がりの可能性もある。
馴染むまで腰を進めるのを止めて、おなまえの肩口に唇を落としてまた息を吐き出した。
するとおなまえも苦しそうに喉を鳴らす。
俺も辛いが、まだ、耐えられる。……さっきのフェラで出しとけばもっと余裕を持てたろうに。後悔先に立たずだ。


「ぅ……っ、く」
「…まだ痛むか」
「ち、がぅ、…の……、ぁっ新隆の…」
「……ん?」
「声、が……近…くて」
「…………」
「息かかるの、…なんかゾクゾクす…ぅあ"ッ!」


抵抗で締まって苦しいんだと思ってたのに、俺の声で勝手に感じて反射で締めてただけらしい。
それを言うならこっちだって、散々耳元で喘がれて限界だ。
動いて平気みたいだし?さっき指で弄った辺りを自身の先で何度も突いてやる。
大人しくしてた逸物が急に中で暴れだして、おなまえの喉から高く嬌声が上がった。


「んあっ、ら…たかぁ、ッは、あ!」
「……ッ…ホント…何て声で呼びやがる……」
「うぅ、…ぁっ…あ、…すき……っん」


行為中、何度も甘えた声で呼ばれて。
触れ合った肌が、どんどん湿度を増す泥濘が気持ち良くて。
こんなに求められるんなら、もっと早く踏み込めば良かったとこの熱を知らずにいた自分自身を叱りながら、譫言のように愛を囁く唇を塞いだ。


---


翌朝。
寝乱れた髪のまま布団から顔だけを出しているおなまえにジロリと責めるように睨まれた。


「お腹の奥痛い……」
「……スマン」


ご無沙汰とは知ってた。
けど奥が未開発とは思って無かった……だって高校の時コイツの彼氏猿並の性欲だったって聞いてたし--それを覚えてる俺も俺だけど--。

無理をさせるつもりはなかったが、こう、最中情熱的に求められるから、俺も興が乗りすぎて、つい。
言い訳をしながら布団越しに腰の辺りを撫でてやると、徐々に眉間の皺が解けていく。


「もう、いいよ……新隆が、気持ち良かったんなら」
「……おなまえは」
「気持ち、良かったけど……でも今痛い……」
「よし、責任もってマッサージしてやろう。ホラ腹出せ」


くるまっていた布団を無理やり剥がして、その下のルームウェアを着たおなまえを露わにする。
横になっているおなまえの後ろに俺も横たえて、着心地優先の可愛さを度外視した色褪せたシャツ越しに臍の辺りを摩ってやると、怪訝そうな顔をしているおなまえが振り返り肩越しに目が合った。


「……何か悪い顔してない?」
「気の所為だろ」
「…ねえ、何でゆさゆさするの。のの字が良いんだけど」
「まあまあ俺に任せてろって」


「その内痛くなくなるからさ」と言う俺の言葉に首を傾げながらもおなまえは「それなら、いいけど」と身を任せ始めている。
数時間後、汗だくになったおなまえに「エロマッサージ師!」と涙目で力無く叩かれるのだが、専属契約ってことでそれ以上のお咎目はナシだった。

……やっぱり俺の職業、整体師か何かと思ってないかコイツ。









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