死なば諸共



「霊幻、タバコ辞めたの?」


肩にかかっただけのワイシャツがずり落ちることも気にせずにおなまえは部屋を見回した。
以前来た時はあったはずの灰皿がない。
それにいつも行為後に一緒に吹かしていたはずの霊幻が煙草を出す素振りも見せずに横たわったままだった。
おなまえの質問に霊幻は「あー」と低く唸るように声を上げる。


「辞めたっつーか……まあ、そんなとこ」
「ふぅん」


「金掛かるしな」と頭の後ろで手を組み、ごろりと狭いシングルベッドで寝返る霊幻を尻目に、おなまえは咥えた煙草を元の紙箱にしまった。
自前の灰皿があるにはあるが、部屋の主が吸わないんなら自分も吸うのはよそうと思っての行動を目聡く霊幻は指摘してくる。


「構わず吸えばいいじゃん」
「別に今吸わないと死ぬ訳じゃないし」
「あっそ」


自分も隣に倣って身を翻すと、ベッドにうつ伏せて枕に頭を沈めた。
深く呼吸をすれば霊幻の匂いがする。


「霊幻が真人間になっちゃった」


枕に埋めたままそう言うと、すぐ隣でハッと笑われた。


「何処がだよ」
「元々酒は激弱だし、ギャンブルも誘えば来るけど自分からはそんなにでしょ。そんな霊幻から煙草までとったらさ」
「……とったら?」


おなまえが入り込んで来たことで余計に狭くなったベッドの上。
壁際に寄ったまま片肘を着いて頬杖にしている霊幻が言葉の先を催促する。
怠そうに--いつもだが--見てくるその視線を少しだけ頭を上げて受けると、おなまえは目線だけを霊幻に寄越したまま呟いた。


「嘘つきのエロいアラサーじゃん」
「嘘つきはともかく後半はお前にそっくりそのまま返すぞ」
「私は違うの。霊幻がエロくさせてくるだけだから。至ってノーマル」
「お前も嘘つきだわ」
「いはい。ほーほくはんはい!」


頬を抓られたおなまえが痛みに霊幻の腕をぺちぺちと弱く叩く。
霊幻はか弱い抵抗をしばらくそのままにしていたが、やがて気が済んだのか手を離しておなまえの顔の横に手をついた。
自分の頬を擦りながらおなまえは上体を乗せてくる霊幻を見上げる。


「またするの?もう1時だよ」
「おなまえがエロいとかいうから」
「言っただけじゃん中学生か」
「言うから思い出しちまったの。お前が悪い」
「寝れないじゃん〜」


そう言いながらもおなまえは霊幻の首の後ろに腕を回して唇を寄せた。
何だかんだと言いはするが、結局おなまえが拒まないことを霊幻は知っている。

柔らかな唇を吸って舌を差し出せば互いのそれが絡まって水音がたつ。
汗をかいて少し冷えたおなまえの体を抱き寄せ、まだ泥濘んでいる中心に立ち上がり掛けている自身を擦り付けた。


「ん…、ぁっ……音する…」
「何が?」
「下……くちくちいうの…、やだ…っぁ!」


腰を寄せ合う下部から上がる粘着質な音におなまえが恥ずかしがる素振りをして、顔を隠すように腕を上げる。
その腕を掴んで手を頭上に固定させると、潤んだ瞳とかち合って霊幻はフッと笑みを浮かべた。


「やだって顔に見えねーけど?」


おなまえの顔に赤みが増すと同時に秘所からも蜜が溢れて入口を行き来する霊幻の自身を根元まで濡らす。
これでエロくないとか言わせないからなとでも言いたげに口端を上げる霊幻に、おなまえは悔しそうに唇を一度引き結ぶと「エロい顔やめて」と顔を背けた。


「どっちが」
「声も顔もやらしいの。ホントずるい」
「お前いつもそんなこと思ってたの?」
「あっ、…やだ……ひぁっ!あ、…ぁあっ……スケベ…ッ」
「そりゃまあスケベですから?そういうこともしますよねってことで」


すっかり勃ち上がった自身に片手でゴムを被せながら、空いている手で中を探りながら親指の腹で陰核を撫でる。
赤く熟れた先をくるくると甘やかされると同時に、肉襞を押し付けるように刺激されておなまえは喉を反らした。


「ぅあっ!あ、…は、っれー、げん……あぁっ」
「すげー締まる。…ホントここ好きな」
「ゆ、び……やだぁ、あっ!」


首を横に振りながらおなまえが霊幻の体を引き寄せる。
甘えるように胸元に額を擦り付けると快感に浮ついた声がすぐ側で耳を擽った。
次から次へと溢れ出てくる愛液に霊幻の指がどんどん濡れていく。
爪の先で弾くように秘芯を苛めるとビクリとおなまえの体が弾んで背に回った指に力が籠った。


「んあっ、ぁ……れーげ…、はぁっ…ん、ふ…」


すっかり体温が上がって朱に染まった顔が寄せられる。
請われるまま唇を塞ぐと嬌声がくぐもって、湿度のある音が部屋に響いた。


「れぇ、げんので…、…イきた……もう、ちょうだい…」
「…っ……ホント、最高だわお前」


煽りの天才だよ、とおなまえの前髪を指で退かして露になった額に唇を落とす。
するとおなまえは幸せそうに目を細めた。
何度体を重ねても、この瞬間のおなまえに胸を掴まれる感覚は薄れないものだなと霊幻は自身を沈めて奥歯を食いしばる。
奥へと誘うように飲み込むのに、少しでも引き抜こうとすると強く抵抗するように締め付けてきて、思わず快感に息を吐くとおなまえも恍惚とした表情を浮かべた。


「…さっきシたのになぁんでこんなキツイんだよ、」
「知らな…っ、霊幻がさっきより大きくなったんじゃないの……っひ、!」
「……だとしたら、誰かさんがやぁらしーせいだ、な…っ」


招かれるまま奥まで腰を進めると、自身の先がおなまえの最奥に触れる。
もう幾度も拓かれたそこに硬い熱を感じておなまえはこれから来るだろう刺激を予想して唇を震わせた。


「んん、……っぁ!は、…ゃああッ」


捏ねるように暴かれた弱点を小突かれて、快感に潤けた声がとめどなく流れる。
腰を密着させるとおなまえの中は霊幻を吸い付くように締め付けて、それが堪らなく気持ちが良くて自身を引き抜くのが惜しくなる。
霊幻は段々と上擦るおなまえの声に、互いに限界が近いのを悟る。
肌同士がぶつかる音と息遣い、重く淫猥な空気の香りに酔わされるまま2人は快感を貪った。


---


「……しんど……」
「私もですけど……もー、バカじゃん〜…」


荒く息を吐き出した霊幻に掠れた声でおなまえは言い返すが、起き上がる気力もないのかくたりとベッドに横たわったままだ。
そんなおなまえを乗り越えるように上体を乗り出して、霊幻はおなまえの鞄を探る。
その中から煙草とアッシュケースを取り出すと、「1本貰っていいか?」と口に咥えた。


「…辞めないの」
「1本だけ」
「いいけど………私にも」
「ん」


ライターで火をつけるとおなまえも重たそうに起き上がって煙草を咥える。
2人並んで煙を燻らせると不意に霊幻が「なあ」と呟いた。


「どうしたの」
「いつ新隆って呼んでくれんの」
「…………ふぅー」
「なあって」


おなまえはピタリと固まったあと誤魔化すように顔を背けて煙を吐き出す。
長く吹き出されるその煙が薄く部屋に溶けていくのをおなまえ越しに見ながら尚も食い下がると、おなまえは「んー」と弱々しい声を出した。
そして首を傾げながら不安そうに言葉を紡ぐ。


「……私も、真人間になったら……?」
「今すぐ煙草辞めろ。酒飲むな。スロット打つな」
「やだやだダメ人間でいたいぃ〜……霊幻だって今吸ってる!」


駄々をこねるように大袈裟に肩を揺らしてみせるおなまえに「元気じゃん」と小さくツッコミを入れて霊幻も煙を吐く。


「コレはな、例外」
「何でよ」
「……さっき気付いたんだが。おなまえとシた後一服しないと不完全燃焼みが強い」
「何それ。じゃあ一服しなきゃ絶倫じゃんヤバー」
「他人事みたいに言ってますけどもれなくおなまえサンも付き合わされるんですよー?」
「お断りします」


ピシッと両腕で大きくバッテンのマークを作るおなまえ。
それを白けた眼差しで霊幻は見据えた。


「断らねぇ癖に」
「……スキンシップ大事だし」
「愛称で呼ぶのもスキンシップだろ」
「霊ちゃん?」
「ふざけんな」


そんな呼び方あるかと笑いながらおなまえの額を小突く。
「暴力反対」と数十分前にも言った言葉を繰り返しておなまえが額を押さえる。
そんなおなまえの様子を見て「あ」と何か閃いたように霊幻が姿勢を正した。


「?」
「良い事思い付いた」
「なになに」
「結婚する?」
「ゴホッ!」


そしたら自分も"霊幻"じゃん。変じゃん。てことは自然に新隆って呼ぶじゃん、と霊幻は自身の掌をポンと打ってついでに短くなった煙草をアッシュケースで消す。
突然のプロポーズにおなまえは吸い込んでしまった煙を必死に喉から捻り出しながら合間に「ちょっ…、まっで…」と苦しげに声を上げた。
そんなおなまえの背中を擦りながら霊幻はうんうんと頷く。


「ごんな…っ、ケホ……私、ダメ人間ですよ…?」
「嫌だったか?」
「嫌……では……、ない…………けど……本気??」


段々と尻すぼみになって行くおなまえの声。
冗談なのでは、と霊幻の顔色を窺ってくる視線には戸惑いが見て取れた。
「こんな冗談言うか」と顔を顰めればおなまえが「あ」とか「う」とか言葉にならない声を赤い顔で口にし始める。


「ダメ人間2人が力を合わせたら真人間になれるかもだろ」
「ダメ人間同士ダメになったらどうするのさ」
「そんときゃそん時」


必死に頭を働かせているのか、チリチリと火種が進んで大分短くなってしまった煙草をその手から掬い取ると霊幻はキッチリとケース内の灰で押し潰した。


「俺はおなまえとだったらダメになっても構わん」
「…………惚れ直しそうです新隆さん」


パチンとアッシュケースの閉まる音がする。
真っ赤に染まった顔を両手で覆い隠しながらか細く放ったおなまえの言葉を霊幻は聞き逃さなかった。


「やっと呼んだか」


ニヤリと笑って茹で蛸の様に熱いおなまえの頭を、まるで犬にするようにわしゃわしゃと撫で付けると抗議の声を上げようと顔を上げたその唇に口付けた。










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