虎視眈々



※高校生律、Sぽい要素注意




ポコン、と軽快な音と一瞬の振動を伝えるスマホに目を落とした。
見慣れないアイコンの隣にはアルバイト先の先輩の名前があって、アイコン変えたんだな、と更新されたSNSを開く。


"ケーキバイキング!食べ尽くしてやるんだ #やけ食い#スイーツの鬼#ここに住みたい"。


そうコメントと共に上げられている写真には2人がけのテーブルいっぱいに広げられたケーキたち。
ひとつひとつは小さいけれど、こんなにたくさんの数を本当に一人で食べられるんだろうかと律は写真に写った向こう側の席を確認した。

写真に収められている分には、出ている食器は先輩一人分。
向かいの席には見覚えのある先輩のトートバッグが置かれている。


"1人で食べ切れるんですか?"


先輩の友人たちからも似たようなコメントが寄せられていて、先輩はそれに"手伝いに来てくれてもいいんだよ"と返信をしていたが尽く断られていた。
友達多いよな、と更新されたばかりの写真に続々と増えていくコメントを見つめていると、先輩からの返信が来る。


"律君甘いの食べられる?良かったらおいでよ!"


その返信を確認した直後、ポコンと別の通知が鳴った。
先輩がトークアプリで"暇なら手伝って!"とお店の位置情報を一緒に送ってきていた。
意外にも近所にいるらしい先輩に、"20分くらいかかります"と返信をすると律は腰を上げ上着に袖を通した。


---


先輩のことだろうから、きっと他の人にも気軽に声を掛けて誘ってるだろうと思ったのに、甘い物好きな友人は少なかったんだろうか未だに先輩は一人で机に並べられたケーキたちと格闘していた。


「おなまえ先輩」
「律くーん!ありがとう、来てくれて。あ、こっち座って座って」


声を掛けると向かいに置いていた鞄を机の下の荷物置きに入れ直して、おなまえは律が座れるスペースを作る。


「結構早かったね」
「近所でしたから」
「しかもたまたま暇だったの?ラッキー!私ついてる」


「何でも好きなの食べていいよ」とフォークとお絞りを差し出されて、律はそれを受け取りながら1番近くにあったアールグレイのシフォンケーキを自分に寄せた。
おなまえはモンブランを二欠片分程食べ進めた所で止まっているが、そのすぐ脇には既に5皿程空のお皿が重なっている。


「誰か他には来ないんですか?」
「みんな忙しいってさ。薄情だよねぇ」
「……何かありました?」
「んー?うんー…まあ、いろいろね!飲み物何飲む?」


一瞬おなまえの表情に陰りが生まれたが、すぐに何事も無かったように流されてしまった。
「助っ人に来てくれた律君には先輩が奢ってあげよう!」と飲み物以外も追加で頼もうとするおなまえに「今あるの食べ切ってからにします」と冷静に断る。


「現実的だなぁ」
「おなまえ先輩、本当に一人で食べ切るつもりでこんなに頼んだんですか?」
「……残りはテイクアウトしようと……」
「つまりもうお腹いっぱいなんですね」


もぐ、と小さくフォークに乗せられたモンブランの一欠片を口に入れるおなまえ。
小ぶりなモンブランとはいえ、それでも余りに小さな一欠片すぎて残りはまだ3分の2強ある。
何の理由もなしにおなまえがこんな無茶をするとは思えないが、話したくないのなら気分転換に付き合おうと律はとりとめもないおなまえの雑談に相槌を打ち続けた。


---


律が机の上のケーキを食べ切る頃にはおなまえもモンブランを食べ終えていて、少しだけ時間を置いたことで幾分か楽になったのだろうか「次は飲もう」と強気にスマホで周囲の店を探し始める。


「飲みません。僕未成年ですよ」
「そーんな堅いこと言わないで〜……律君大人っぽいよ?」
「それとこれとは話が違います」
「ちぇー褒めたらいい気になってくれると思ったのにダメかぁ」
「ダメなものはダメです」


頑なに示される居酒屋を断っていると、ようやく諦めたのかおなまえは「わかったよぉ」と嫌々ながらスマホを仕舞った。


「じゃあ……飲まなくていいからもうちょっとだけ付き合って?」
「それは別に構わないですけど」


腹ごなしも兼ねてと只管歩き続けるおなまえに着いていく。
時々車止めや広場の花壇の縁に腰を掛けて休みつつ、日が傾きかけていく空を見上げながら「何処まで散歩するんですか」と律は聞いてみた。


「あと5分くらいで着くよ。……あ、そこのコンビニ寄っていい?お菓子とか買おー」
「あんなに食べてまだお菓子食べたいんです…?」
「甘いのの後はしょっぱいのも欲しいでしょ!ホラホラ、律君も選んで」


言われるがままコンビニの籠を持たされて、放り込まれる菓子と缶チューハイたちに律はおなまえをジトリと見つめる。
するとその視線に気づいたおなまえが「お茶なら家にあるからさ」と律を宥めた。


「家……って、おなまえ先輩」
「大丈夫大丈夫」
「……」


家と聞いて律はおなまえの後ろを着いていた足を止めた。
おなまえは一人暮らしだと以前聞いたことがあるけれど、恋人がいたはずだと律は記憶を探る。

その"大丈夫"は、何の意味の"大丈夫"なのだろう。

すげ替えられた新しいSNSのアイコンや、ケーキバイキングで一瞬垣間見えた暗い表情が脳裏を過ぎる。
チラリとおなまえを窺えば、ちょうど律が後ろを着いてきていないことに気が付いて振り返ったおなまえと目が合った。


「あ。どうしたの?何か他に買いたいものあった?」


「荷物持ちの報酬として私奢るよ!」とサラッと重たい缶たちを律に持たせるつもりのおなまえの表情は明るく、律は首を振って答える。


「……ここまで来たら、とことん付き合いますよ」
「おっ!じゃあ律君も!」
「お酒は先輩だけですよ」
「いけずめ」


「気分転換、したいんですよね」と会計を終えて荷物の入った袋を持ち上げると、律の声におなまえがぱちりと瞬きを繰り返した。
数度瞳を伏せた後少しだけ眉を寄せて「律君は察しが良い子だねぇ」とふにゃりと笑って返す。
すぐにその笑顔はいつものものにすり変わって数歩前に進み出した。


「あとちょっとだから。荷物持ち頑張って」
「…はいはい」


---


「どうぞ」と通されたドアを潜ってすぐに、ふわりと軽い石鹸のような香りが鼻を擽った。
ほんの数ミリの段差で表されている玄関の靴置きにはサンダルとさっきまでおなまえが履いていたブーティしかない。
廊下の限られた空間を活かした壁掛けのシューズボックスには行儀よくスニーカーやパンプスが数足並べられていて、その脇のワイヤーラックにキーケースを引っ掛けると「鍵閉めちゃっていいよ」と言いながらおなまえは律の手から袋を取ってキッチンに消えて行った。


「……お邪魔します」


カチリとサムターンを回すと、「あ!」と何かを思い出したのかおなまえが声を上げた。
数秒するとキッチンに掛かっているレースの暖簾を割いておなまえが顔を出す。


「手、キッチンで洗ってもらっていい?今あっち洗濯物干してて」
「ああ、はい」
「ありがとう!真ん中のそこ、座ってて」
「手伝います」


するりとレースを手で避けて中に入ると、冷蔵庫と蓋付きのゴミ箱の間で肩身が狭そうに詰められたゴミ袋が視界に写った。
しかしすぐ隣でグラスや皿を用意されていることに気が付いて落とした視線をすぐにおなまえに向ける。


「はい、じゃあコレお願いします」
「……お茶は」
「お茶だよコレ。ジャスミン茶」
「泡立ってますけど」
「騙せないか…」


相変わらずお酒を勧めてこようとするおなまえに改めてお茶のボトルを出して貰うと、ようやくリビングのラグに腰を下ろして乾杯をした。


「やー、家まで連れ回してごめんね。ありがとう」
「大丈夫です。話を聞くくらいしかできませんけど」
「それだけで助かるんだってー。相槌大事だよ」


「お酒飲めたらもっと助かるけど」と氷の入ったグラスを傾けて煽るおなまえに、「あと数年待ってて下さい」と律は苦笑する。

大学はどうだとか高校はどうだとか、バイトがない日はあれをしたとか次の休みはこれをしたいとか、ケーキバイキングではしなかった話をしたり道すがらしていた話の続きをしたり。

さっき買ったばかりの菓子を少し摘んではグラスに注ぐのが面倒になったのか、直接缶チューハイを飲んでいるおなまえの顔がどんどん赤くなってきているのがメイク越しでもわかる。
少し飲むペースが早くなってきたな、と隣で律がお茶を注いでいると少し低めのおなまえの声が耳に届いた。


「…ホントはさ、一人で家に帰るの嫌になっちゃって。だから、律君に着いてきてもらったの」
「……そうですか」
「なんでですか?って、聞かないの?」
「聞いていいなら」


缶を持ったまま伏せていた顔をおなまえが上げた隙に自分の持っていたお茶のグラスと持ち替えさせる。


「話したくないなら、それでもいいです。口下手なんで、忘れられる程面白い話は出来ないですけど」
「……ううん。律君は口下手じゃないし。聞き上手だよ」


「うちの大学来なよー私卒業しても遊びに行くから」と軽口を叩くおなまえに、「考えておきます」と当たり障りなく応えておく。
1口お茶を飲んだおなまえが自分の両膝に頬を付けて律をじっと見てきた。
律はその視線に首を傾げる。


「どうしました?」
「……私ね、彼氏と別れたの」
「…ああ、やっぱりそうだったんですね」
「やっぱりって……あ、キッチンの見た?」


手当たり次第にゴミ袋へ詰め込んだ風な衣類たちが、冷蔵庫とゴミ箱の間の狭い空間に押し込まれていたのを思い出す。
律の反応におなまえは背筋を伸ばし伏せていた上体を起こした。


「見ましたけど、ヤケ食いしてる時から薄々思ってました」
「えー……気づくの早くない?」
「他の人だって薄ら気付いてるんじゃないですか?」
「そんなことないよ〜……だって誰からもメッセージこないもん」


互いにスマホに目を落としてみるも、やはりおなまえのスマホには友人の誰からもなにか変化があったのではと探るようなものはひとつもなく、未だにヤケ食いに対して"食べ過ぎだ"と揶揄うものばかりだった。


「アイコンだって変えてるし、ヤケ食いしてるし、"#ここに住みたい"とか言ってるし、帰りたくなさそうなのがヒシヒシ伝わりますけど」
「わー何か改めて言われるとわかり易すぎて恥ずかしくなってきたー!何でそんな見てんの?見すぎだよ!」
「見られて困るんならアップしないことですね」
「……ぐう。の音しか出ない…消そ…」


律からの指摘に恥ずかしさから一層赤みの増した顔でおなまえが自分の投稿を消しているのを横目で確認する。
そのままおなまえから離れた位置にわざと置いていた缶チューハイにおなまえが手を伸ばすのを見て、「ペース早いですよ」と律は制止した。


「飲ませて!飲まなきゃやってられないんですっ!」
「悪酔いしますよ」
「全部忘れたいんだぁぁ」
「ちょっと……!」


飲まないように飲み口を自分の手で覆っているのに、その手ごと掲げて飲み下そうとしてくるおなまえをもう一方の手で抑えると、不意におなまえの瞳から涙が零れ落ちる。


「だってさぁ…アイツ浮気してたんだよ……っ、1年も……わ、たし、ずっと知らなくて……」


一度溢れてから箍が外れたように次から次へと涙が頬を流れて行った。
律は自分のハンカチを差し出しておなまえの目元を隠すように覆うと、おなまえは受け取ったそれを両目に押し付ける。


「…サイテー…。見る目ないんだ私…その前なんて既婚者だったし……なんでいつもこうなっちゃうんだろ、」
「……おなまえ先輩が悪いんじゃありません。その男たちがクズだっただけだ」
「…そう…なのかな……」
「別れて正解です。そんなヤツに先輩が心を砕く必要ない」


律の言葉を反芻しているのか、それとも元彼のことを考えたからか、おなまえがぐっと強くハンカチを握った。


「…次も浮気するような人だったらどうしよう……」
「…おなまえ先輩って、浮ついてそうな雰囲気の人が好みなんですか?」
「うーん……、どうかな…見た目はそんなんじゃなかったけど。2人とも年上だったくらいで」
「それじゃあ、先輩が"重い女アピール"したらそういう類のクズは減るんじゃないです?」
「重い女……」


話している内に段々と気持ちが落ち着いてきて、おなまえがハンカチから顔を上げた。
赤くなった目尻を心配げに律が見つめると「ごめんね、ハンカチ。洗って返すね」とメイクで汚れてしまったハンカチを大切そうにおなまえが手に包む。


「それくらい別に…。そうですねぇ、"携帯絶対見せてくれる人じゃないと付き合わない"って宣言するとか」
「うわあ」
「きっと浮気性なヤツらもそう思うでしょうね」
「そうでなくても嫌でしょ……だって律君彼女にそう言われたら嫌じゃない?」


「疑われてるってことじゃん?」と言うおなまえに、律はポケットから出した自分のスマホを目の前まで差し出して見せた。
自分の手元にまで差し出された律のスマホと律の表情をおなまえは困惑した表情で交互に見つめている。
すると暗いそのスマホの画面を、律がロック解除を目の前でして見せた。


「どうぞ」
「えっ。い、いいんだよ見せなくてっ!」
「僕なら彼女が不安なままの方が嫌だ」
「……律君の彼女は幸せ者だね。ありがとう、スマホ。大丈夫だよ」
「おなまえさん」


スマホを突き返そうと押し出されたおなまえの手を律が握る。
一瞬強ばったおなまえの手だが、そのまま律に任せるようにじっとした。


「今までと真逆なタイプと、付き合ってみたらどうですか」
「……真逆、って…」
「僕とか。どうですか」


ピクリと手の中のおなまえの手が身じろいだ。
敢えて握り直しもせず、そのままおなまえの瞳を真っ直ぐ見つめて反応を待つ。
涙で剥げ落ちた素に近いおなまえの目が瞬いては視線を彷徨わせた。


「り、……付き合ってみる、なんて…そんな軽く……」
「おなまえさんに何かあったの、気付いたのは僕だけですよね」
「……う、ん」
「僕ならおなまえさんを大事にします」
「な…なら尚更そんな、軽く決められないよ!」
「僕はおなまえさんが一途な人だって知ってます」


恋人がいる間は絶対に異性と2人きりにならないし、異性となると私的な連絡も滅多にしない。
だからバイトで同じシフトになった時かSNSでしかまともに会話が出来なくて、今までどれだけ自分が歯痒く思ったことか。
律はようやく本心を口にした。


「早く別れればいいのにって、ずっと思ってました」


ようやく機会が巡ってきた。


「ただ、忘れるのに僕を使ってくれるだけでもいいんです」


再びおなまえの名前を呼んで、今度は手の中の彼女の手に指を絡める。
未だ答えに揺れている様子を見て、残り僅かなまま放置されていた缶を律が煽った。


「律君お酒…っ、ん、ぅ」


口に含んだままおなまえに唇を合わせて酒を流し込む。
気の抜けかけた炭酸が舌の上を滑って、後からアルコール特有の熱が追う。
差し入れられた舌と液体をそのまま受け入れて飲み込んだおなまえの喉元が熱くなって唇の隙間からくぐもった声が洩れた。


「…お酒のせいにしてもいいですから…」


赤い目尻をなぞる様に指先で撫でると、おなまえの濡れた睫毛が上がって至近距離で見つめ合う。


「りつ、君」


少しだけ浅くなった呼吸の隙間から、声が僅かに震えている。


「後悔、させちゃうかもしれないよ…年増だし、重い女っぽい?し…」


そう言うおなまえの言葉を、律はフッと鼻で笑った。


「上等ですよ」


重たさでいったら自分の方が重い自覚があったし、例えであっても後悔なんてするはずもない自信もあった。


--『律君の彼女は幸せ者だね』


数分前に言ったおなまえの言葉を思い出す。
SNSの更新がある度、おなまえの口から恋人の話題が出る度、幾度"そんな風に自分も想われたら"と願ったことか。

このチャンスを逃しはしないと、ボロを出したおなまえの元彼に今だけは感謝をした。


---


肌蹴たシャツの隙間から差し込まれた掌にピクリと身を震わせると、それを紛らわせるように唇が降ってくる。
此方の方が年上なのに、キスに応えている内に腕から下着が抜き取られて露わになった双丘を優しく撫でる手際の良さにおなまえは自分が不慣れなのかと錯覚しそうだった。


「う、…ぁっ……律、君」
「うん?」
「そこ…気持ちぃ…っん、…はぁ、あっ!」


胸の先をクルクルと弄ばれ、律の指に自分から押し付けるように胸を反らした。
それに合わせて指の腹で捏ね合せるように摘まれると、おなまえの口から甘い声が溢れた。
今までは想像することしかできなかったおなまえの艶やかな声に気を良くして、律は口端を上げながら尚も胸を責め続ける。

片方を指で弄りながらもう片方を口に含み、舐ってみたり舌先で転がすようにしたりすると熱に浮かされたようにおなまえの表情が蕩けていく。
甘噛みするように歯の先で薄く肌を滑るように歯を立てた途端、おなまえの肩が震えた。


「あっ、あぁ…は、…んん……あ"ぅ、っ」
「…コレ好き?」
「ひ、あっ…あ、あっダメ、…それぇ…!」
「ダメ?」
「う……ぅ、ちが…っ」


少し強めの方が反応が良さそうと判断しながらも、おなまえの言葉に指と舌を緩める。
すると真っ赤に染まった顔のおなまえが口を押えながら首を横に振った。


「だ、ダメじゃない…です……もっと…触ってほしい…」


消え入りそうな程小さく囁かれる。
両膝を擦り合わせながら哀願するように見つめてくるおなまえを見下ろしていると、その煽情的な仕草に一層興奮を掻き立てられた。
ぢゅ、と音を立てて胸の先に吸い付くと、律を離すまいとするようにおなまえが腕を回してくる。

擦り合わせられている両足の隙間に肌を撫でていた律の手が近付くと、おなまえが自分から足を広げた。
熱を帯びた中心に近づくにつれ期待するようにおなまえの呼吸が浅くなり、肌も湿り気が増している。
けれど中心には触れないまま内腿の際や丸く滑らかな尻の輪郭をなぞっていると痺れを切らしたおなまえが律を呼んだ。


「ん、…っ、り、律ぅ…」
「…なに?」
「あ、あの…」


もじもじと羞恥心と闘っているおなまえの反応が可愛くて、わざとゆったり間を持って返事をする。
切なげに眉を寄せて、潤んだ瞳で下半身にある律の手を見つめている。


「さ、触って…ほしいの…」
「触ってますよ?」
「…っ、ちがうの……お願い、…ココぉ…」


ふるふると首を横に振って、堪らなくなったのか律の手に自分の手を重ねて濡れそぼった中心に導く。
芯を持ったように硬く腫れている陰核と指が擦れる様におなまえが腰を揺らした。


「ここ、ぁっ…いっぱいしてほし…はぁ、あっ!」
「ここ好きです?」
「すきぃっ、んあ"っ!あ、ぁあ…っ、」
「…おなまえさん、可愛い…」
「うぅ、っあぁ!…り、つく……ん、あっ…あぁああ…!」


クチクチと粘着質な音を立てながら花芯を剥き、溢れた愛液を何度も擦り付けるとおなまえが律の服を掴んで腰を浮かせるとそのまま膝を震わせた。
指先にばくばくと大きな脈動を感じながらも、ゆるゆると陰核の先を撫で続けているとおなまえが荒く吐き出した息の合間にも嬌声が上がる。


「ひ、ぅあっ!…り、律く……あ"っ!イ、った!今イったの、あう、ぅっ」
「そうなんですか?…ちゃんと教えてくれないと、僕わかりませんよ」
「言う…っ、次は……言います、からぁっ、…あ"ぁあっ!クリさわらな…っんああ!」
「ん?」
「あっ、や、ぁあ、う…うそ、また……あっ、イ…イクぅ、は…っぁ、ああぁっ!」


聞こえない振りをして愛撫し続けていると、ぶるりとおなまえの体が再び震えた。
足の先をきゅう、と丸めてビクン!と弾んだ後、膝がガクガクと小刻みに揺れる。
添えているだけの律の指を蜜壷から溢れた愛液が濡らして、その入口が誘うようにヒクヒクと微動を繰り返す。
瞬きの拍子におなまえの瞳から涙が零れて、律はそれを舐め取った。


「…痛かったですか?」
「ふぅ…は、…ううん……気持ち、良すぎて…ん、あっ」


誘われるまま指を1本中に沈める。
熱い肉襞が包み込んで来る圧に抵抗するように中を探っておなまえの様子を窺うと、ある一点を指先が掠めた時に声に艶が増した。


「あっあ、ゃだ…っ私、ばっかり…ぃ、あっ…ふ、ぅ」


後ろ手におなまえが律の中心を物欲しげに撫でる。
ベルトのバックルをそのまま外そうと爪の先がカチャカチャと音を立てた。


「…ゴム、買ってないんでダメですよ」
「……あるから…お願い、します……後で新しいの買うから…っ」
「…………」
「ダメ、…ですか…?」


律の許しを待つ様に手を止めて、おなまえが不安げに見上げてくる。
快感を期待しながらも、理性を繋ぎ止めながら律の様子を窺っている。
さっきまで先輩風を吹かせて笑っていた姿とのギャップに、押さえ付けたい衝動を奥歯を噛み締めて堪えた。

律が「ください」と手を差し出すと不安そうな表情がホッと綻んで笑顔を見せる。
薄いパウチを受け取って、封を空けながら「後であのゴミ袋にまとめてやろう」と小さな苛立ちをベッドサイドにある開封済みのゴムの箱を睨んでぶつけた。


「律、くぅ、…ん……っ、ふぁ…あ、はぁっ!」
「…どうしました?」
「も、もう着けたし……、う…ぅ、っあ、ん…」


避妊具を着けている合間もおなまえの中の指は休まずに彼女を追い詰めていて、ジリジリと熱が溜まる感覚におなまえの腹の奥が疼き始める。
なのに素知らぬ振りで首を傾げられて、おなまえは喉と胸が締め付けられたように切なくなった。


「お願い、します……っ、律君の…挿れて下さい……」
「あぁ…偉いですねおなまえさん、ちゃんと言えるんですね」
「あっ、ぅ……、はぁ、…は…ァ、」


すり、と頬撫でてやるとおなまえの方からも律の手に擦り寄る。
指を抜いて蜜を垂らすそこに自身を宛てがえば、食むようにゆっくりと埋もれて行った。
余り奥は拓かれていないのかある一定まで進むと抵抗が強くなっておなまえが深く息を吐く。
苦しそうなその姿に律は抽挿を止めた。


「痛いですか…?」
「…ううん、…っは……平気…、大きくてびっくりしただけ…、あ"ッ」
「……、……」
「なん、でっ…きゅ、…あ"ぁっ!」


呼吸を繰り返していたおなまえが、突然律に体重を掛けられ自身を根元まで打ち込まれる。
そのまま律動されて、訳も分からないまま嬌声を上げた。


「おなまえさん、ここはまだそんなに気持ち良くないですか?」
「う、…ぁっ!……、よく…わかんな……」


しっかりとおなまえの腰を抱いて律が奥に自身の先端を擦り付ける。
押し返そうとする圧を無視して何度も繰り返されている内に、奥に触れられる度にゾワゾワとしたいつもと違う感覚が芽生えてきた。


「僕のここまで届くんですよ。早く、覚えて下さい」
「んぁあ"っ!…は、……はい、ぃ……あ、や。今…そこ…っひ、ぁああ、」


おなまえの下腹部を掌で柔く押し付けると、外側から加わった力で中の感覚が鋭くなったのか中がぎゅうと締め付ける。
律儀に覚えようとしているおなまえの反応に気を良くして、下腹部を抑えたまま親指で恥丘を引き上げて剥いた陰核を人差し指で愛撫する。


「イヤでした?」
「ふ……ぅ、うぅ…ん、あっ!嫌じゃ、ない…です、う、ぁっ!」


まだ奥の感覚が鈍い内は外と併せて、段々と中で快感を拾えるように覚えてもらわないとな、と律は必死に自分から与えられる刺激を受け止めているおなまえを見下ろした。
幾度も腰を打ち付けられ弱い秘芯を責め続けられたせいで、すっかり目の前の律のことしか考えられなくなっている。
次第に中がヒクヒクと震えてきて、「イキそうです?」と掠れた声で尋ねてみた。
おなまえは余裕が無いのか、両手で口元を抑えながら頷く。


「は…ぁん、っ!イ、イキ…そ……です、っ…く……ああっ」
「…隠さないで下さい。ちゃんと見せて」
「あっ、り、律く…、…も…はぁっ、」
「うん」


口元の手を律が片手で纏めてしまう。
曝け出すように言えば一層おなまえの中がきつく吸い付いた。
限界を告げるおなまえが乞うように律を呼んで指先に力が篭もる。
その指たちに唇を落としながら、おなまえが悶える様を見つめる律のギラついた視線に煽られて雪崩るような快感の波に落ちていった。


---


「頭が痛い…」
「暴飲暴食の結果ですね」
「手厳しい…」


そんなに度数ないのに、と空になった缶のパッケージを拾い上げて見つめる。
「ペース早かったですから」とその手から律が缶を取り上げて、市指定のゴミ袋に放り込んだ。
そのままあっという間もなく机の上やキッチンにあったゴミを纏めていってしまう。


「あ!待って私やる…」
「ついでに買い物行ってくるんで。お茶飲みきっちゃいましたし」
「そう、だったっけ…?」
「じゃ、鍵掛けてください。着いたら電話します」
「ありがとう…」


テキパキと--人の家なのに--湯を沸かして身支度を整えてくれた上に颯爽と片付けをして部屋を出て行った律の仕事の速さにおなまえは呆気に取られたまま数分固まっていた。


「…確かに今までとは真逆なタイプだぁ…」


ボソリと呟いて水を飲もうとキッチンに入る。
元彼の荷物が入ったゴミ袋が消えていてやはり、と思うと同時にふと「もしかしてゴミ袋に包まれてあっても元彼の物を触って欲しくなくて捨てに行った…?」という考えが頭を過った。


「……ハハ。考えすぎよね」


ぐびりと注いだ水を飲み下しながらベッドに腰掛ける。
ふとサイドボードから出しっぱなしにしていたはずのゴムが箱ごと無くなっているのが見えて、思わずゴミ箱を確認したが新品の袋に替えられているのにようやく気が付いた。

洗面所にあったカップも、紺色のバスタオルたちも、楽だし取っておこうかなと思っていた部屋着にするつもりだったスウェットも、ない。


「…いつの間に…」


これは生半可な気持ちで済ませられないぞ、と--そんなつもりは元より無かったけれども--おなまえは改めて腹を据えた。
チャリ、と玄関脇のキーケースからサブキーを取り出して見つめる。


「……これも替えてもらってから渡そうかな。その方がいい気がしてきた」


うんうん、と自分に言い聞かせるように頷く。

となると、新調しないといけないとのが多々あるなぁと思い至り「バイト増やそ……律君と被るの多くなるかなぁ」と逡巡しながら律の電話を待った。












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