S×S【2】 | ナノ
(Limited)

市場の通路を埋めつくす人の波。

私とチョッパーは思わず目を丸くした。
人の波どころかうねりかもしれない。こんな小さな島のどこにこんなに人がいたんだろう。
ナミから貰ったお小遣を持ってちょっとお買い物、くらいのつもりだったのに、これは気合いを入れないとお店に近づくことすら出来ない。

「すごいねー」
「これ何かの祭じゃねェかな、ルーシア」
「あ、チョコレートのお祭りだって。この時だけの限定とかあるんだって」

私が指差した大きな立て看板を見上げて、人獣型のチョッパーが納得したように大きく頷いた。

「チョコレートの祭ならこうなるよな」
「そうかなー。そんなにチョコいる?でも限定って言われたらちょっと燃えるかも」
「ご試食どうぞー」

差し出されたお皿の上には、ピックが刺さった小さなチョコレート。私とチョッパーは一瞬だけ目を合わせ、すかさずピックを手に取った。
お皿はあっという間に目の前から消え、次の瞬間他のお客さんのところに位置を移している。
貰ったチョコレートは、舌の上でふわっと溶けてしまう。

「これ美味いな、ルーシア。もっと甘かったらもっと美味いだろうな」
「このくらいがワインに合いそうだよ」
「ワインあんまり好きじゃねェ」
「チョッパーはそうだっけ。ナミとロビンと食べるのに買っていこ」

試食を配る店員さんに声をかけて一箱包んでもらう間にも、いろんなところから試食のチョコレートが差し出されてくる。商品の紙袋を受けとるころには十種類は口にしてたかもしれない。
チョッパーはヒーローを見たと時みたいに目をキラキラさせている。

「すごいな。おれチョコレートの祭、毎日来たいぞ」
「チョッパー、口の横チョコついてる」

奥に向かって歩き出しながら教えてあげると、チョッパーが口の端を蹄で擦る。ジェスチャーと口パクで『はんたいがわ』と伝えると、両方の蹄で口の回りを撫で始めた。チョコは取れたけど毛並みがあっちこっちを向いてしまったチョッパーを見て、私は吹き出してしまう。

「今度ルフィと変顔対決する時それやったら?」
「勝てそうか?ルフィは顔が伸びるから、変顔強いんだ」

いろんな分野に強い船長ってカッコイイけど、変顔はその中に必要なのかな、とつまらないことを考えながら、毛を下向きに撫で付けるチョッパーを手伝おうと少しかがんだ。毛足が長そうな感触が気持ちいい。

「ご試食どうぞー」

私とチョッパーの前に新たな試食のお皿が差し出された。

「あっ、ケーキだ」
「ほんとだ」
「一日300個限定のチョコレートケーキです。良かったらホイップクリームをつけて召し上がって下さい」

聞き終わる前に手を伸ばす。一口サイズにカットしてあるケーキは、ギュッと詰まったチョコレート生地の回りをさらにチョコレートでコーティングしてある。私はクリームなし、チョッパーはたっぷりクリームをつけて、それぞれ口の中に放り込む。

「美味しい!」
「甘っ、美味っ」

ケーキの生地はちょっとビター、コーティング部分は少し甘め。口に入れた瞬間から、濃いチョコレートの味が口の中に一気に広がって、その風味に圧倒される。

「すっごくチョコレートだね!美味しくてびっくりした」
「おれ、これ欲しいぞ。サンジに頼んだら生クリーム泡立ててくれるかな?」
「チョッパーが頼んでダメなら、私がサンジに頼んであげる」
「ほんとか、ルーシア!だったら生クリームは大丈夫だな」

明るい表情のチョッパーがリュックから財布を取りだそうとした時、無情な声が辺りに響いた。

「限定ケーキ売り切れでーす。本日分の300個、ただいま完売しました!!」






「ログ貯まるのにもうちょっと時間かかりそうって言ってたから、明日までは絶対出航しないよ。チョッパー、頑張って明日の朝イチで買いに行こ?」
「そうだな……」
「ほら、サニー号に着いたよ!私、チョコレートたくさん買ったから一緒に食べよ?ね?チョッパーが好きそうな甘いやつもあるよ」

しょんぼりと肩を落としたチョッパーが、力無い足取りでタラップを上がり始める。よろけた時に支えられるよう後ろからついていきながら、チョッパーが買うと言った時にまずケーキをおさえておくべきだったな、と私は反省した。ナミやロビンなら絶対そうしてたのに。

「あら。チョッパー、ルーシア、お帰りなさい」
「ただいま……」
「ただいまー、ロビン。早かったね、って、それ!」

ロビンが持っているのは、さっき買いそびれたチョコレートケーキの箱。私の声に驚いて顔をあげたチョッパーも、その箱を見て目を見開いた。

「これ?ナミが買ってきた限定のチョコレートケーキよ。皆で食べるのに切って貰おうと思って」
「それって今日のおやつってことだよね?」
「そうね」
「うわっ、やった!チョッパー!!」
「うおー、やったな、ルーシア!!」

お互いの手の平を打ち合わせて喜ぶ私とチョッパーを見て、ロビンが微笑みながら首を傾げた。

「あっ、サンジにクリーム頼まねェと!」
「そうだった!あのね、チョッパーがケーキにクリーム添えたいんだって」

訳がわからないだろうロビンに説明を試みる。ロビンの察しの良さも幸いして、私たちの話の意図はすぐに伝わった。

「それじゃ、早くキッチンに行きましょう」

踊るような足取りでチョッパーがキッチンに向かうのを見て、私とロビンは目を見合わせた。

「何かあったの?ルーシア」
「あったけど解決」
「そうみたいね」

階段を上りながらとうとう踊り出したチョッパーの様子に、ロビンが楽しそうに笑う。腕をクネクネとさせる妙な動きはとても真似できそうにない。
私たちが階段の最初の段に足をかける頃にはチョッパーは階段を上り終え、キッチンのドアノブに手を伸ばしていた。その表情が興奮でキラキラ輝いているのを見ると、私もつい楽しくなって笑い出してしまう。

開けたドアからキッチンに走り込みながら、チョッパーがサニー号の甲板を埋めつくすくらいのはしゃいだ声をあげた。

「サンジ!あのなー」


《FIN》

2018.02.15
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Written by 宮叉 乃子
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