「私は願う、早く世界に終止符を」
「愛を知らないなんて一種の子供の様な戯れ言は言わないけれど、それでも世界が云う愛とは私にとって気持ちが悪い、ただの腐敗物。人間の所有物の塊で悪魔を狂わす感情に愛など絶対的に必要が無い」
「何がって、彼女の罪。彼女は罪人。嘘を囁くのなら一本残らず針を千本飲んでほしい。僕の思慕を土足で踏み散らかさないでほしい。内でも外でも笑っている彼女は、私が言うのも少し可笑しいかもしれないが、悪魔だ。今だけなら自分の方が人間に近い」

静まり返った部屋の片隅に居る彼は月に背を向けるようにして世の理の疑問点を赤子のように喚き呟いていた。執事の周辺に使用人はとうに眠りについており部屋に二人、主人と執事。主人の方は相当な値段がするであろうシャンデリアを下に、高級な布地が施されているであろう椅子に、腰を掛けて書類に目を向けていた。勿論セバスチャンの一人語りは耳障りで仕方がなかった。


「独り言にしては長いし煩い。聞いているこちらの身にもなってみろ。セバスチャン」
「坊ちゃん‥」
「後、リジーがもう来ている」
「は」



「私はセバスチャンを愛していますよ」

キイ、とドアが開いた。にこり。セバスチャンの苦悩に満ちた生活の素因、令嬢が気配も無しにドアの外に佇んでいた。彼女は満面の笑顔と綺麗な嘘を彼に捧ぐ。彼女の愛とはそうエゴイスト。セバスチャンは目眩がした。彼女の罪に抗えるものなど存在するのかさえ考えるほど彼は参っていた。彼の捧げた愛は悪魔の様な性格をした人間。悪鬼。寧ろそのような人間だからこそ惹かれ、其処に磁場が在るかの如く悠然と構える彼女に執着した。
セバスチャンは負けじと笑顔で言葉を紡いだ。

「エリザベス令嬢‥吐き気がします。食べますよ」
「ふふ、色々矛盾してるわ。貴方にこの命捧げるくらいなら自殺するわよ」

まるでセバスチャンが彼女を死に追いやったかの様な台詞をたった一声浴びさせれば彼は罪悪感に見舞われ苦しむ事は勿論分かりきっていた。時点、彼は頭を抱え座り込み唸っている。どういう訳か彼女はセバスチャンが悪魔という事を知り、対して何も疑問点を挙げない。何より悪魔が自分を好んでいる事に対してもだった。

「凡庸な方」
「‥私の事でしょうか」
「勿論」

彼女は恐れない上に平凡と謳う。セバスチャンの悪魔だとか冷酷非情だとかは例えるなら地球が丸いのと同じような些細な事実で気に留める事は無かった。それを一度だってセバスチャンに言ったことは無く、それよりは苦悶する彼を見て楽しんでいた方が暇潰しになって気分が良かった。
そう、綺麗に並べ立てる言葉にうんざりしていた貴族一個人の、暇潰し。
ああジギタリス。それでも君を、
愛し殺したい。





ジギタリス=庭に植える有毒の多年草

110118
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