それは、かの六道骸が脱獄に成功した時の事であり、M.Mは早く彼に会いたい気持ちで忙しく彼の所在に向かっていった。しかし彼は疲れに伴い眠っており、彼女は察知し起こしてはならないと、その場に居た、昔、黒曜で共に戦った柿本千種と会話を始めた。彼女は退屈しのぎに、と考えながら。

根暗‥アンタって本当に根暗ね!何考えているか全然わかんないし、いつも面倒、面倒‥って、アンタの方がよっぽど面倒くさいと思うわ!例えば骸ちゃんは優しくて強くて完璧主義者で何よりお金を持っているから素敵なのよ。惹かれるのよ。彼と付き合うにはもちろん一筋縄ではいかないと思うわ。アンタと違ってね。それにアンタは無愛想で仏頂面で朴念仁で無一文だわ。だから女にもモテないのよ。もちろんマフィア関係者の女よ?一般の女なんてまず相手にもしないわよね、猫背で根暗でバーコード付いてる男だなんて。本当、どうにかならないのかしら、その性格。

彼女の言い分を少しも漏らさず聞いていた柿本千種は

「うん、知ってる」

と、たった彼のその一声で、真っ赤なルージュで輝いているしなやかな唇はきゅ、と、いとも簡単に閉じてしまった。静かに、世の中総てに無頓着、と言ってもいい様な面倒さ、冷静さに彼女は悔しくも惹かれていて、その彼の揺るがない精神を何時も壊したくてたまらなかった。それは彼女が欲求不満だとか、趣味だとか、そういう類のものではなくただ単に彼女の興味本位という思考の下に思っていた事。そして直ぐ喧嘩口調になるのが彼女の特性でもあり、短所なのでもある。彼女はそれなりに自覚はしていた。

「‥怒らないのね」

彼は否定も肯定もしなかった。唯彼女の次に口にする言葉を待っていた。

「こんな事言うつもりで貴方に会ったわけじゃないのに、口が勝手に動いちゃう。貴方達と会った頃から全然成長出来ていないのね、私」

ふう、と珍しく彼女は溜め息をつく。

「そういうの、旧態依然、って言うんだよ」
「知らないわ」
「俺は日本が好きだから偶然この四字熟語を知ってる。それと同様に犬も、骸様も、俺が好意を持って一緒に居る」

「M.Mも、なんだよ」

突然彼が真っ直ぐに彼女を見て、彼女の心臓は正常に動いてくれない事は彼女自身にも逐一気付かされた。

「‥で も、愛とはまた別のモノなのでしょう」

彼の言動に少し動揺してしまった彼女はふと本音が口から零れ落ちた。しまった、と思いつつも彼女も彼の本音を聴きたいと直ぐに思った。彼はほんの数秒黙り込んで、口を開いた。

「‥その感情は、面倒くさいからね」

遠回しに否定され、こんな時ばかりに嘲笑う彼は残酷過ぎた。期待させて裏切って、彼女の大好きなお金とは全く正反対で、その正反対な彼に惹かれる彼女は、自分はよほどの物好きなのだろうか、と思った。
嘲笑う彼につられて彼女も苦笑う。彼女にハッピーエンドは似合わない。


100808

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