怠けた表情全てが俺を狂わせた。俺が狂った、だなんて周りの煩い奴らに言わせれば何時もの事だろう、と軽く微笑でもするだろうが、今はそんな事どうでもいい気がする。否、どうでもいい。俺が言いたいのは俺の中にある情、というものが奴の性で芽生えたかもしれないのだ。いや其れよりもその情、というものが奴に傾いているかもしれない、と言った方が良いかもしれない。

「フラン、いい加減こっち向けよ」

俺は今フランの部屋にいる。何故この糞蛙がいる部屋にいるのか奴自身が一番知りたいだろうが、俺も俺自身に問いたいくらいだ。そして何故思って俺はこの様な台詞を吐いているのか。この状況は明らかに俺がフランに好意を求めている事に等しい。理由としては俺がフランに対するこの感情を知りたいが為にフランの部屋に忍び込み、今の状況に至る。只それだけの事。そして先程の質問に吐き気を催す程の糞蛙の甘ったるい声で返事をするのを期待している俺がいる。

「嫌ですー、何でミーがセンパイの為だけに振り向かなきゃいけないんですかー」

この時程奴の口にした言葉の内容を気に留めなかった事はないと言っても過言ではない。やはり奴の声は甘い、と思う。顔も童顔だし、妙によってはエロく見えてしまう。口調だって男らしくはない。まるで女の様だ、と思った。

「それよりもベルセンパイ、何用でミーの部屋まで来たんですか、返答によってはセンパイの事軽蔑しかねますー」

こいつが喋ると本当に棒読みにしか聞こえてこないが、どんな返答で俺を軽蔑するのか、その軽蔑しかねる返答で先の未来を見てみたいと少し思った。

「特に大した用事なんてねーけど」
「じゃあ何でミーの部屋に勝手に来て普通に喋っているんですかー、今何時だと思ってるんですか堕王子」
「さり気なく会話ん中に堕王子入れんな」

確かに今は深夜で、時計は3時を指している。部屋に忍び込んでから1時間程は経過していた。寝ているかわからないタイミングで来たから相手にとっては驚いた事だと思う。まあ、王子の俺より先に寝るなんて許さねえけど。俺はずっとソファーに座って1時間も奴と喋っていたのか、と考えていると本来の目的を見失いかけてしまいそうだった。そして何故今頃奴はその本来の目的を質問してきたのかが不思議でたまらない。フランが唯単に眠くなってきただけか、それとも遅い時間にやって来たのだから夜這いにでもしに来たのかと思っているのだろうか。男に夜這いだなんて、気色悪くて考えたくもないが、むさ苦しい野郎ばかりの隊だからソッチの気がある奴もいるだろうし、珍しくはないかもしれない。まさかこいつ、夜這いでもされた事あるのか?だから先程の会話でも、もし俺が夜這いに近い行為をしに来た、なんて返答したならと考えて軽蔑しかねるなんて言ったのか?というかもし俺がその様な立場なら絶対に軽蔑どころでは済まないがな。
少し気になり逆に質問してみた。

「何しに来たんだと思う?」

相変わらず俺を見ないフラン。その視線は本に向けていた。ベッドの上で悠々と読んでいて、何の本かは分からないが何かの小説の様に見える。読んではいるのだろうが、俺との何気ない会話もちゃんと続いている。器用な奴だと思った。とてもそういう風には見えないのだが、ギリギリの所で奴は俺の本能を解してくれる。少しの間だが沈黙が続いた。何を考えているのか解らない奴程何も考えてなかったりするが、どこか本性を表さないフランは少し違う気がした。毒舌ではあるが、ちゃんと考えて行動している。だからこそ幹部にまで成り上がったのだと俺は考える。
そんな奴が俺の問いにどんな返答をするのかが凄く気になった。その返答と関係はないが、只俺は、奴に対するこの情が知りたいだけ。それだけの為にここにいる。

「‥センパイがミーの事をそんなに嫌いじゃないから、‥とかじゃないんですか」
「‥は?」

全く予期していなかった返答に俺は奴の言った事をもう一度脳内で整理する。奴の視線は本。俺の視線は奴。顔など全く見えないが、いつもの雰囲気と少し違う事は把握出来た。

「ミーの事嫌いじゃないから、ミーとおしゃべりしに来たんじゃないですかねー」
「俺‥は、お前に対して何かもやもやしてて‥、この感情が何なのか知りたくて、‥来たんだけど」

俺は正直に、且つ単調に理由を話す。この空気に何故だか自分でも分かる位、後戻りが出来ない事、そしてこいつに好意を抱いていた事だけが分かった。

「ミー正解ですねー」

急に奴は振り返り、滅多に見る事が出来ない笑みを俺に見せる。今日初めて奴の目に俺が映った。ベランダからはひんやりとした風が通っていて、俺の顔は少し熱っぽく、どのような表情になっているのかを理解するには当分時間がかからなかった。

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