ぼんやりと、柄にもなく物思いに耽っていた。決まって思うのは君。たった一回きりの銃で重力に逆らえず転倒し、ぐったりとした体がほぼ動かない状態の後でも、一番に君の事を。血の匂いが鼻にこびりつき、なかなか離れなくて、そろそろ君ともお別れだと言うことを肌で感じる。この状況に驚く、なんてものじゃないだろうね、嗚呼君の事が気がかりでとてもじゃないけど安心して寝てられない気がする。

棺桶に入った今でも君は随時俺の心配事の原点。君の声が聞こえるまで俺はこの体ぐらい君に捧ぐ事が出来るけれど、俺の総てを君に捧げる事はできない。もちろん俺には運命をねじ曲げる力なんてこれっぽっちも持ってはいないし、権力や金でさえも運命に逆らう事など到底出来る事ではないと、学生の時テストは毎回赤点だったという俺の頭でも理解は出来る。

零れ落ちる涙は、口に含むと塩辛く、眼に溜まる液状のものは滲ませながら落ち、後に腫れぼったくなり、鼻水は垂れさせ、着々と不細工な額に造り上げていく。すみません、と謝りながらもまるで子供の様にすすり泣いて、最近は見てないけれどあんなに整えられた綺麗な額が歪み、綻ぶ。俺にしか見せない君の泣顔を、まるで赤の他人の如く客観的に見るのが、自分でも少し気味が悪いと思いつつも俺の密やかな楽しみのひとつだったり。単純に言えば綺麗な額が一気に不細工に変わる瞬間を俺は好んで見ているのだ。趣味ではないつもりだが、人に言えばこれはかなりの頻度で悪趣味と苛まれるのだろう。

声を発しても、そうでなくても、直ぐに俺の下へ駆けつけてくれる獄寺君。
俺は毎日酸素を吸い肺に送り込むかのごとく運命に感謝し、そして何度も運命を呪う。

じゅうだいめ、じゅうだいめ、おきてください、しっかりしてください、おねがいです、おれをおいていかないでください、じゅうだいめ、またみんなでゆきがっせんするんでしょう、はなびみるんでしょう
ねえ、じゅうだいめ、

しなないでください……



学生の頃からテストの点数は常に満点と、悠々と取っていただけあってかなり賢く頭の回転が早い。仲間に助けを求めていないから現状把握は脳内ではしているだろうが、結果を受け止めていないのだろう。そろそろ声を張り上げて泣きそうなのだがいつまでも君の額は不細工にならない。哀惜の念に堪えない額はいつも俺が楽しみにしていた額ではなくて。
悲しみに満ち溢れてはいる、だが、いつものぐちゃぐちゃの額ではなく、とても、とても綺麗な額だった。

今声が届くのならば、君に伝えたい事がある。
俺達はすべて捨てられたら愛し合えたのかもしれない。勿論捨てるつもりは毛頭無いのだけど、俺の選択で後悔はしていない。してはいけない。

もう泣かなくていいんだ、棺桶に入った今でも君の声は届いているから。


101024

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