1〜10 | ナノ
冗談のつもりだった。彼はいつでも往来での過度な接触を拒むから。
「シズちゃん…?」
戸惑い問いかけてみると、
「…なんだ」
ぶっきらぼうな口調。
でも、金髪から覗く耳たぶの赤さに、彼の勇気と気恥ずかしさと俺への思いやりが垣間見えるから堪らなくなる。
ありがとう。俺は君に心まで温めてもらったね。
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夕焼けは感傷的になるから嫌いだ。あと、赤という色がいけない。
俺がこの世で一番大嫌いで憎らしい奴を思い出させる。
ちッ、うぜえな。俺にあのノミ蟲野郎のことを思い出させるなんて何様のつもりだ。
天に唾を吐きかけるような、とはこの事だろうか。忌々しい赤を睨みつける俺の目は赤く染まっていた。
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シズちゃんが、欲しい。何が欲しいと聞く度にそうねだる臨也。
口元は確かに笑っているのに、懇願の色を隠しきれない目を見るとムカムカする。
あのな、俺は、俺の全部はとっくに手前のもんだ。だから、今更そんなこと言われても、困る。
もうあげたものをどうやってあげられる。いつになったら解んだよ。
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繋がる時、陸に打ち上げられた魚のように、呼吸ができないとシズちゃんが泣くから、その口をやさしく塞いでやる。
本当に息を吹き込むわけではないけど、俺がシズちゃんを生かしてるような錯覚にいつも溺れそうになる。
ねえ、本当に呼吸ができないのは俺の方なんだよ。そうして、俺は君から酸素を貰う。
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最後には、ご丁寧にフードまで被せられた。
「なんの真似だ」
「んー、結婚式?ほら、フードは花嫁のヴェールみたいだろ」
いや、そんなわけねえ。第一色が黒いだろ。
言いたいことは山程あったが、黒いヴェールというのが悔しいがあいつと俺には似合いだな、と思ってしまったのでどうやら俺の負けらしい。
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「好きだ」
お喋りで良く口が回り小難しい言葉ばかりを並べ立てる男が発したとは思えないほど、陳腐でシンプルな台詞。
それだけにその一言は酷く静雄の胸に刺さった。
この男が今までしてきたことを考えれば信じられる訳がない。だがそうは疑えないほど、必死で切実な色を含む目を見るともうだめだった。
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「好きだ」
自分の口からするりと飛び出した台詞に、臨也自身驚愕せざるをえなかった。
一体何を口走っているんだ。よもや化け物に愛の告白など。
気でも触れたのか?頭の芯は冷えているのに、顔も体も熱くて熱くて仕方がなかった。
静雄の反応もいけない。そんな目で、顔で、俺を見るな。――戻れなくなる
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「お前って意外と好き嫌い多いよな。そんなんだからノミ蟲なんだぞ」
「ノミ蟲は関係あるの?まあでもそうかもね…」
「なんだよ?」
「いや、食わず嫌いは良くないよね、うん。実際あんなに嫌いで嫌いでこの世から消えればいいとさえ思ってたものも今では大好きで仕方ないしね」
「…何の話だ」
「さあ?」
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最近トマトが食べられなくなった。
オムライスはケチャップがかかってるとだめだ。
林檎なんて以ての外だ。
「シズちゃん?こっち見てよ。誰の事考えてんだか知らないけどさあ…ほら、目開けて。閉じるなんて許さないよ」
渋々瞼を持ちあげると禍々しい赤が飛び込んできた。
ああ、忌々しい。
診断メーカーお題【IDに「r」か「2」が入っているフォロワーさんのリクエストで文章を書きます。】
イザシズで「目を瞑る」をテーマに。
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紙切れ一枚。もしシズちゃんが女なら、それ一枚あればいい。
それだけで一生が約束される。誓いの言葉もキスも指輪も必要ない。本当はその紙一枚だけでいいんだ。
だけどシズちゃんは男だ。そんな紙何の役にも立たない。だから
「シズちゃん、結婚しよう。……ううん、してください」
診断メーカーお題【IDに「r」か「2」が入っているフォロワーさんのリクエストで文章を書きます。】
イザシズで「プロポーズ」をテーマに。