シズちゃんとくだらないことで喧嘩した。
　本当につまらない喧嘩だった。今思い返しても恥ずかしくなるぐらいの。　
　そのすぐ後、俺は急遽くだらない仕事(シズちゃんと天秤にかけたらどんなことでもくだらないけど)で、家を三、四日空けなくてはならなくなってしまい、仲直りする機会を失った。
　しかも、本来ならその間に電話でもメールでもするはずだったのに、最初の一日目でトラブルが起こって、そんな暇もなくなってしまい――俺は、なんだかバツが悪くなって、それ以来シズちゃんとメールのやり取りすら交わしていない。
　まあ、シズちゃんは元々こういう時でも積極的に連絡を寄越す方ではないし、今回は喧嘩中ということもあって期待してたわけじゃないからいいんだけど……いや、ま、寂しくなかったと言えば嘘になるけどね。
　あ、なんかそんなこと考えてたら、余計寂しくなってきちゃった。
　早くシズちゃんに会いたい。会って、開口一番謝って、それから……――。
　ふと、嫌な想像が頭を過った。
　俺は、電話やメールなどの連絡はマメな方だ。
　それこそシズちゃん相手にだと、たまに『しつこいんだよ手前は！』と怒鳴られるぐらいの有様で……それが、そんな俺が今回は何の連絡もしていない。――というか、色々な心情で出来なかったんだけど。
　あー……これ、嫌な風に取られてないかな。なんていうか、俺がすっごく怒ってて連絡しなかった、とか。出張先で女にかまけてるから連絡しなかった、とか。というか、普通はそういう風に考えるよね。当たり前だよね。でも、人の行動や感情を読むことに、恐らくそこら辺の人間には負けない自負を持っている俺でも、シズちゃんって何考えてるのかいまいち良く解らないことあるんだよな。それこそ、もう付き合って大分経つっていうのに。
　情けない。恋人の考えてることも読めないなんて。
　だけど、けどさあ、裏を返せば、シズちゃんのことほんっとに好きだからさ……だから、いつまでたっても読めないんだろうね、きっと。多分、一生こうなんだろうなあ……。ていうか、読めないからこそ好きになったのかな。何でも読めちゃう人間なんか退屈すぎてつまらないからね。読めないからこそ、好きになり、好きになったから、ますます読めなくなる、か。