10/14(Sun):orz
静雄は、抱き締められるのとキスされるのが好きだ。
それから、自分では大嫌いだと公言している渾名を呼ばれるのも。
もっとも、そのどれも一度たりとも好きだなんて静雄の口からは聞いたことがないが。
「シズちゃん」
普段の臨也を知る者からすれば、胡乱な眼差しで見られること間違いなしの蕩けるような甘い声。
ベッドに座らせた静雄の頬を両手で包み込み、そっと触れるだけのキスを落とした。
ちゅ、ちゅ、と恥ずかしくなるリップ音を立てながら、臨也は何度も何度も口付ける。
唇だけでなく、滑らかな頬や、今は伏せられている鋭い眼光を内包する瞼、それから果ては臨也気に入りの明るい金の髪にまで。
最後のそれに、目元をほんのり赤く染めて視線を彷徨わせる静雄の落ち着かない様子を目にした臨也の心臓が跳ねる。
静雄がこういった行為に不慣れなことは知っている。むしろ、付き合うのもキスを交わすのも、何もかも自分が初めてだということも。
それを知ったとき、臨也は柄にもなく叫び出しそうになった。
嬉しいなんてものではない。歓喜に打ち震え、この上ない幸福感を覚えた。
改めて、眼下にいる愛しい人に目をやる。すると、視線がかち合った。
彼は座っているため、いつもとは違い少し上目遣いでじっと見つめてくる。そうしてから、ちょっと小首を傾げた。
どうやら、さっきからあまり喋らない自分を不思議に思っていたらしい。
もうすぐ25歳になる男がするにしては、大分可愛らしすぎるその仕草。
それも普段は地を這うような声に、すぐにこめかみに青筋立てるような短気な男がするのだから堪らない。
「好きだよ、シズちゃん。大好き」
「ん、……俺も」
照れ屋な恋人はあまり明確な言葉をくれないが、臨也はこれで充分満足だった。
なにしろ、元の関係性が関係性だ。ここに漕ぎ着けるまでも、それはもう果てしない努力があったのだが、今それについて考えるのは止めておこう。どうも静雄のことになると、あらゆる感情を抑える箍が外れやすくなるらしく――つまり、単純に言えばこの場合、泣きそうになってしまうのだ。