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悪魔は甘美な罠を張る - 5



その日は珍しく、瀧本は学校を休んだ。
いや、珍しいというのも可笑しな話だ。俺の前に現れたあの日から約一週間、それまで学校に来ていたかも分からない瀧本は確かに教室に通い、授業を受けていた。
けれど、瀧本のいない教室こそが当たり前だったのだ。


「あれー? 今日は守ってくれる瀧本はいないんだ〜?」

「瀧本もホモは嫌なんじゃねーの? うつっちゃーう、なーんてさぁ」

「ギャハハ! てめーマジその声キメー!」


バコッ。投げつけられた空の紙パックが頭に直撃。僅かに残っていた牛乳が髪にかかった。


「うわ、くせーんだけど、まじうぜー」

「おい誰かゴミ袋持って来いよ。早く捨ててきてー」


なんて低劣な考えしかできないのだろう。そっとため息をついた瞬間、額が机にめり込んだ。ぐわん、と揺れた脳が気持ち悪い。


「なにため息ついてんの? 息すんなって言っただろ?」


後頭部に触れたことで付着した牛乳を俺の制服に擦りつけ、まじ汚ねーとか言いながら手を洗いに行く彼らを横目に、俺は教室の隅でこちらを窺う彼を見てしまう。
まるで自分が被害者のような顔をして、俺を見ている彼。

あれ? 俺、なんであの人が好きになったんだっけ?


「……」


額に大きなガーゼを張りつけ、汚れた制服で帰った俺を、両親はさすがに気づいていたのか転校を進めた。通信制の高校でもいい、これ以上無理をするな、と。
お前の性癖がなんであれ、自分たちの大事な息子が傷つくことのほうが私たちは辛い。
そう言われて、俺は彼に告白してから初めて泣くことができた。




 


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