南雲をお呼びでしょうか - 10



白いレースの施されたテーブルクロスの上にそれらを並べる。まるで女性のような可愛らしい声を漏らしながら、皆さんは色鮮やかなピンチョスとプチフールを眺め、神宮司さまと真辺さまを見る。二人が苦笑を浮かべて頷くと、それらの料理にニュッと手が伸びた。


「では、ごゆっくりお過ごしください」


給仕の方々と目配せをしたあと、僕は一礼して踵を返す。しかし、南雲と呼ばれてすぐさま彼の元へ足を進めた。


「はい、南雲をお呼びでしょうか、神宮司さま」

「南雲、俺はこうしてまたお茶会を楽しむ余裕ができたわけだが、一つ、お前に言い忘れていたことがあった」

「? なんでしょう?」


親衛隊の皆さまが軽食と紅茶を楽しみ、賑やかな中庭の席で、彼は腰掛けたままこちらを見上げ、不敵に笑った。


「南雲、お前が好きだ。俺の専属になって、一生を捧げろ」


それは決して甘くなく、どこか幼稚で乱暴で、年相応とは言えなくもない可愛らしさを伴った、だけど神宮司さまらしい言葉の羅列である。
ぱち、ぱち、と目を瞬かせた僕が口を開くよりも早く、真辺さまが立ち上がった。


「神宮司さま、神宮司さまが見初められるには申し分のない南雲さんですが、彼を好きだと言うからにはまずは僕に話を通して頂けますか? 南雲さんは簡単には渡せません」

「な」


はて、親衛隊長である真辺さまが僕を怒るならまだしも、どうして神宮司さまが釘を刺されているのだろうか?


「神宮司さま〜、南雲ちゃんを専属にされては困りますー」

「そうですよ、神宮司さま。南雲を専属にされるのであれば、まずは私に話を通して頂けますか? あぁいえ、まずは理事会ですかね?」


首を傾げる僕の両隣から現れた野本さんとチーフが、「な」と口を開いたまま驚く神宮司さまにそう告げると、彼の口が今度は「お」になった。


「……どうやら、重森よりも難しい問題らしいな。ふん、いいだろう。おい、南雲」

「は、はい、南雲をお呼びでしょうか、神宮司さま」


様々な疑問がぐるぐると頭の中を駆け回る。叩き込まれた教育にも覚え込んだマニュアルにも答えのない問題を隅にやり、僕は神宮司さまに向き直る。


「覚悟しておけ。そして諦めろ、お前の一生は俺のものだ」


立ち上がった彼が至近距離でそう言うや否や、僕の目前には見目麗しい彼の顔。気がついた時には、彼の赤い舌が自身の唇を舐めていた。


「神宮司さま! なっ! なんてことを、うら、羨ましい!」

「いやぁー! 南雲ちゃんが汚れちゃったー!」

「野本、神宮司さまに失礼ですよ、男なら行動で示しなさい。神宮司さま、歯を食いしばってくださいますか?」


きゃーきゃー、わーわー、辺り一帯が騒がしくなる一方で、僕は僕自身に起きた現実にクラクラと目を回しながら、動じてはいけないと分かっていても両手で顔を隠すことだけは、どうしても止められなかったのである。





―――――
王道?学園会長×学園で働く(無自覚愛され)ウェイター平凡

非王道でお話が書きたいなぁ、なんて思っていたはずなのに、なんだか違うものができました。
俺様会長ってどうやったら書けるんでしょうか?笑
(マリモ退治の一連はほぼスルー)




 


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