「だからこそ、食堂でちゃんと食事を取る貴方の姿を見て、少しでも安心したい真辺さまの気持ちが分かるのです」
席についた彼の前に、ジンジャーエールを注いで差し出す。ゆるりと笑う僕を見ていた神宮司さまは、少しだけ困ったように息をついた。
「お前は俺が教えた以上に出来るようになったようだ。真辺たちにもそうしてフォローしてくれたんだろ?」
「これもすべて神宮司さまのおかげですね」
「生意気だな、南雲」
「恐れ入ります」
はははっ! 微笑む僕に笑う神宮司さまが、ジンジャーエールを口に運ぶ。それが確かにジンジャーエールであることを知っているのに、どうして彼が飲むだけでシャンパンかなにかに見えてしまうのだろうか。
「南雲、今はまだ仕方なく現状に甘んじているが、すぐにでもお前の好きな学園の形に戻してやる。だからまずは、俺を癒せ。そして励ませ」
「はい、より一層尽くす覚悟でございます」
「馬鹿、そうじゃない」
どういうことでしょう? そう問うはずの口が開くその前に、なぜか僕は神宮司さまに抱きしめられていた。脳内で性急に対処法を探すマニュアルを捲りながら、僕はつい動じて慌ててしまう。そんな使用人失格の僕を強く、強く抱きしめたまま、神宮司さまは笑うのであった。
それからの彼は、以前にもまして仕事のペースを上げたのだ。というよりも、正しくは効率を上げたと言うべきか。学園の現状を理事会に訴え、特別処置法として風紀委員をはじめとした各委員会との協力、及び提携を結び、現生徒会メンバー以外の生徒の入室を認めた生徒会室にて、多人数での仕事をこなし、つい先日自分を含めた現生徒会をリコールした。
しかし生徒の強い要望で、彼は再び生徒会長としてこの学園の頂上に君臨している。
そして今、まさにピクニック日和な本日午後二時、神宮司さまと真辺さま率いる親衛隊の方々とのお茶会の席に、僕は色鮮やかなピンチョスとプチフールを運びに来た。
「お待たせいたしました。こちらからサーモン、カプレーゼ、アボガド、生ハム、トルティージャのピンチョスになります。こちらのプチフールは真辺さまからでございます」
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