「神宮司さま、無礼を承知で申し上げても、よろしいでしょうか?」
「なんだ、珍しいな……言え、聞いてやる」
「はい、ありがとうございます」
唯一綺麗に片づけられているテーブルの上に料理を並べながら、僕はそっと口を開く。
「正直なところ、南雲は、真辺さまの気持ちが少しだけ分かるのです」
「真辺の気持ち?」
「寂しいのです、神宮司さま」
ぎっしりと氷の詰まったワインクーラーから取り出したジンジャーエールの瓶を拭きながら、そっと彼の方へ振り返る。
「貴方の力になれないことが、寂しいのです、神宮司さま」
「……南雲、」
入室時から止まることのなかった書類処理の手を止めて、神宮司さまがこちらを見つめている。
僕はそんな彼に苦笑を浮かべ、ジンジャーエールの蓋を開けた。空気の発散する音が部屋に響くが、それがなんだかとても心地良い。
「神宮司さま、南雲はこの学園で働けることを誇りに思っております。それは、今も変わりません。ですが、変わらずにいられるのは、神宮司さまがこうしてお一人、学園の在り方を守ってくださるからです」
「……」
「聡い貴方のことだから、真辺さまたちに頼って頂き、不躾ながらこの南雲が食堂で食事を取るよう勧めたのを分かっていたのでしょう? だから、問題が起きても出てくるなと言いつけていたのでしょう?
神宮司さま、南雲はたかだか使用人である我々にも気を配って、一人責任を果たす貴方の力になれないことが、寂しいのです」
そこまで言って、準備を終えたテーブルを促す。ほんの少しの間を置いて、立ち上がった神宮司さまがこちらへ歩み寄ってきた。
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