「な、大変です、止めに行かないとっ」
「それがね南雲ちゃん、チーフが私たちウェイターは出るなって言うのよ」
「え? でも、あのままでは」
同僚である野本さんの、今は慣れた女性口調の言葉に目を瞠る。次の瞬間、後ろで咳払いの音がして振り向くと、いつ見ても完璧なチーフの姿があった。すぐさま反応した僕と野本さんの体は、きっちりと正され背を伸ばす。そんな僕と野本さんに、チーフは一つだけため息をつくと、仕方ありませんね、と呟いた。
「二人とも、皆さまが心配であることは分かりますが、自分が食堂にいるときどんな問題があっても出てくるなと神宮司さまから言いつかっております。分かったのなら今は自分にできる最善の行動を取りなさい」
「「はい」」
しっかりと叩き込まれた教育は、脳が働くその前に行動が出るよう動く作りに変えられた。僕と野本さんは、あとから覗きにきた仲間たちにそれぞれ事情を話し、通常業務はもちろんのこと、場の空気に気を悪くした方のお見送りや、不愉快な気持ちにさせてしまったお詫びとして各テーブルへプチフールを運ぶ。
その道中では言い争う声が激しさを増していくが、ついに親衛隊の方が泣きだしたところで神宮司さんが仲裁に入った。
「明臣! お前も言ってやれよ! こいつらのせいで明臣は生徒会の仕事を押し付けられてるんだろ!? だいたい親衛隊とかいって明臣を孤立させるなんて最低だ!」
「神宮司さま、お食事中に大変見苦しいものをお見せして申し訳ありません。ですが、我々親衛隊が貴方を見る機会の一つであるこの食堂で、久方ぶりのお食事を邪魔されるのは、貴方を気遣うのはもちろんのこと、我々だって我慢なりません」
両者一歩も譲らない意見に、神宮司さんは顔色を変えることなく口を開いた。
← →
しおりを挟む /
戻る