「どうかお許しください、神宮寺さま。学園内での飲酒は禁じられております」
「言われずともそれくらい、分かっている」
頭を下げる僕をくつくつと笑う彼は、ところで、と話しをつづける。
「このカナッペに、お前ならどのワインを勧める?」
「スーパードライのスパークリングワイン、もしくはシャンパンはいかがでしょうか? クリームチーズが気になるのでしたら、ソーヴィニヨン・ブランをお勧めいたします」
「あははっ、ますます酒が欲しくなるな」
そう言って、無邪気に笑う彼は年相応にあどけなさを漂わせるが、話の内容は決して無邪気なそれではない。
この学園に通う生徒の大半は未成年であるにも関わらず、いつかの日のためにお酒を嗜んでいる。とはいえそれを大っぴらに学園側が許すことはなく、こうして戯れ言(たわれごと)にからかう方々も多い。
「ワインはご用意できませんが、食前酒代わりにジンジャーエールをお持ちしました。甘さが気になるのでしたらこちらのライムをご使用ください」
「食前酒?」
カナッペと一緒に運んできたジンジャーエールを、使い捨てとはいえ見目の良いコースターの上に乗せようとする僕の手を、神宮司さまが掴んだ。
「南雲、俺はなにも一部の生徒を特別扱いしろとは言わない。だが、カナッペは軽食とはいえコース料理では前菜だ。その前菜と食前酒を同じタイミングで出すとはどういうことだ」
些か鋭い視線を向ける彼にほんの少しだけ困ったように微笑むと、彼は罰が悪そうに、だが決して手を離そうとはしなかった。
「ご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありません」
「謝罪の言葉が聞きたいわけじゃない。俺は理由を聞いている」
「ここ最近、神宮司さまが大変忙しい思いをされていると感じ、少しでも時間の短縮ができるようにと考えたからです」
「……お前」
言い淀むこともなく、言い訳をすることもなく、誤魔化さずに自分の考えを告げると、間を置いた彼が若干咳払いをする。
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